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AI業務改善は、どこから手をつけるか——現状把握から始める整理の順番

AIを業務に入れたい。
けれど何から始めればいいのか分からない。
ツールを比較しているうちに、かえって判断が止まってしまう
——そう感じている管理部門の方は、少なくないはずです。

結論から先に触れておくと、最初に見るべきものはAIツールの機能一覧ではありません。
今の業務が実際どう動いているか、そこから確認する必要があります。

AI導入が進みにくくなる要因の一つが、業務そのものを整理しないままツール選定へ進んでしまうことです。
先に業務を整理しておくことで、導入後の手戻りが生じる要因を見つけやすくなります。

この記事では、AIを選ぶ前に何を、どの順番で見ればよいのかを、現状把握・理想状態・差分・業務分解・役割分担・検証という流れで整理していきます。


なぜ「ツール選定」から始めると、うまく進まないのか

AI業務改善のつまずき方には、共通したパターンがあります。

先にAIツールを決めてから、「このツールで何ができるか」を業務に当てはめようとする進め方です。

この順番だと、次のようなことが起きます。

  • 業務の一部分だけがAI化され、前後の工程はそのまま残る
  • 誰がどこで判断しているかが整理されないまま、入力だけが変わる
  • 導入後に「思ったより楽になっていない」という感覚だけが残る

ツールが悪いわけではありません。
業務のどこにAIを置くべきかが、決まる前にツールが決まってしまっていることが原因です。

ここを避けるために必要なのが、業務改善の全体像を先に描くことです。


業務改善の全体フロー

AI業務改善を進めるときの流れは、次の順番になります。

  1. As-Is:現状の業務を観測する
  2. To-Be:業務がどうなっていればよいかを定義する
  3. Gap:現状と理想の差を具体化する
  4. 業務分解:業務を工程単位に分ける
  5. AIと人の役割分担:どこをAI・人・ルールに任せるかを決める
  6. 検証:導入後に何を確認するかを決めておく

ここから、それぞれの工程で何を確認すればよいかを、経費精算業務を例にしながら見ていきます。

なお、以下の例はあくまで仮想例です。
特定の企業の実体験ではなく、管理部門で起こりがちな状況を一般化したものとしてお読みください。


As-Is|現状の業務をどう観測するか

最初の工程は、業務を改善する前に、今どう動いているかをそのまま見ることです。

ここで「AIなら解決できそうだ」という視点はまだ入れません。
先に見方が決まってしまうと、観測が歪みます。

確認する観点は、たとえば次のようなものです。

  • 誰が担当しているか
  • 何を入力しているか
  • どこから情報を受け取っているか
  • どこで判断が発生しているか
  • 例外処理は何か
  • どこで待ち時間・手戻り・確認作業が発生しているか

経費精算業務での例

経費精算であれば、次のような観測になります。

  • 従業員が紙の領収書をスキャンし、Excelの申請書に手入力している
  • 経理担当者が、金額と勘定科目を目視で確認している
  • 交際費かどうかの判断は、経理担当者の経験に依存している
  • 月末に申請が集中し、確認漏れが起きやすい
  • 差し戻しが発生すると、従業員への確認に数日かかる

この時点でわかるのは、「経理担当者が忙しい」という表面的な状態ではなく、入力・確認・判断・差し戻しという複数の工程が、一人の担当者の中で連続して発生しているという構造です。


To-Be|業務がどうなっていればよいか

次に定義するのは、ツールではなく、業務の状態です。

「AIを導入する」自体を理想状態にしないことが、ここでのポイントです。
AI導入は手段であり、目的ではありません。

理想状態の例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 入力作業を減らしたい
  • 判断に使う情報が、確認前から揃っている状態にしたい
  • 担当者しか分からない判断基準を、減らしたい
  • 管理部門が、定型処理ではなく判断そのものに時間を使える状態にしたい

経費精算業務での例

先ほどの経費精算であれば、理想状態は次のように定義できます。

  • 領収書の手入力をなくし、確認作業だけに時間を使いたい
  • 交際費かどうかの一次判断基準を、担当者個人の経験だけに依存せず、判断のばらつきを減らせる形で共有したい
  • 差し戻しが発生しても、その場で従業員に確認が取れる状態にしたい

ここで大切なのは、「AI-OCRを入れる」のように手段を先に書かないことです。
手段は、この後の工程で決めます。


Gap|現状と理想の差を具体化する

As-IsとTo-Beが並ぶと、その間にある差=Gapが見えてきます。

差は「なんとなく非効率」ではなく、できるだけ具体的な言葉にします。

差の例としては、次のようなものがあります。

  • 情報が分散している
  • 判断基準が明文化されていない
  • 例外処理が整理されていない
  • 入力形式が統一されていない
  • 人の確認が必要な箇所と不要な箇所が、混ざっている

経費精算業務での例

先ほどの例だと、Gapは次のように具体化できます。

  • 領収書の情報が、紙・スキャン画像・Excelの3か所に分散している
  • 交際費と会議費の判断基準が、文書化されていない
  • 一定の金額・条件を満たす申請は確認工程を簡略化できる余地があるにもかかわらず、すべて他の申請と同じ確認フローに乗っている

このGapが、この後どの工程を見直すかを決める材料になります。


業務分解|一つの塊のまま渡さない

業務を、一つの工程のままAIに渡そうとすると、うまくいきません。
まず工程単位に分けます。

分け方の例は次の通りです。

  • 情報取得
  • 入力
  • 整形
  • 照合
  • 比較
  • 判断
  • 承認
  • 記録
  • 通知

すべてを使う必要はありません。
今回の具体例に必要な工程だけを選びます。

経費精算業務での例

経費精算であれば、次のように分解できます。

工程内容
情報取得領収書画像の受け取り
入力金額・日付・支払先の抽出
照合経費規定との突き合わせ
判断交際費/会議費など勘定科目の一次判定
承認上長・経理の最終確認
記録会計システムへの登録

こうして分けると、「経費精算をAI化する」という一括りの発想ではなく、どの工程を見直すかという単位で考えられるようになります。

業務を「人・情報・判断」という軸でさらに細かく分けたい場合は、AI導入前に、業務をどう分解する?——人・情報・判断を切り分ける基本設計で詳しく整理しています。


AIと人の役割分担|「AIにできるか」だけで決めない

業務を分解したら、それぞれの工程を、AI・人・ルールのどこに置くかを決めます。

ここで確認したいのは、「技術的にAIにできるか」だけではありません。
少なくとも、次の観点を入れます。

  • 再現可能なルールがあるか
  • 入力情報が揃っているか
  • 誤りが起きたときの影響はどの程度か
  • 最終判断を誰が持つべきか
  • 例外時に人へ戻せるか

AIは手段の一つです。
必要であれば、入力統一・ルール化・テンプレート化・業務分解・システム化・人の役割変更といった、AI以外の改善策も同列に置いて検討します。

経費精算業務での例

先ほどの工程に当てはめると、次のような整理になります。

  • 情報取得・入力:領収書の画像から金額・日付・支払先を読み取る作業は、再現可能なルールがあり、誤りが起きても後工程で確認できるため、AIに任せやすい工程です。
  • 照合:経費規定との突き合わせは、規定が明文化されていれば、ルールベース処理やAIによる照合支援の対象にしやすくなります。ただし「明文化されている=AIに任せてよい」わけではなく、入力の精度や誤判定時の影響を見たうえで、ルール処理とAI処理のどちらが向くかを分けます。
  • 判断(交際費か会議費か):金額や参加人数など明確な基準がある部分は、一次判定の補助へ回しやすい工程です。一方で、取引先との関係性など文脈に依存する要素が絡む場合は、最終判断を人が持つ設計にします。
  • 承認:金額が大きい・例外的な内容を含む申請は、これまで通り人が確認します。AIの一次判定結果は、承認者が確認しやすい形に整えて渡すだけにとどめます。

ここで見えてくるのは、「経費精算全体をAIに任せる」のではなく、工程ごとにAI・ルール・人の役割を分けるという考え方です。

AIへ任せる工程と人が残す判断の切り分け方は、AIに任せる仕事、人が残す仕事——判断工程を絞る業務設計の考え方で詳しく扱っています。


検証|導入して終わりにしない

AIを導入した後も、業務改善はそこで終わりません。
導入後に何を確認するかを、あらかじめ決めておきます。

確認する項目としては、少なくとも次のようなものがあります。

  • 時間が減ったか
  • 手戻りが減ったか
  • 判断の質が落ちていないか
  • 例外対応が増えていないか
  • 担当者の負荷が、別の工程へ移っていないだけか

経費精算業務での例

たとえば、入力作業の時間は減ったものの、AIの一次判定に対する確認作業が新たに発生し、担当者の負荷そのものはあまり変わっていなかった、ということもあり得ます。

その場合は、「導入が失敗した」と結論づける前に、Gapの観測へ戻ります。
判断基準の明文化が不十分だったのか、それとも一次判定の精度に課題があるのか、どちらを見直すべきかを、もう一度切り分けます。

検証は一度で終わるものではなく、As-Isの観測へ戻る前提で設計しておくことが、業務改善を続けられるかどうかを分けます。


AI業務改善を進める前に、確認しておきたいこと

ここまでの流れを、あらためて整理します。

  • 自社のAs-Isは、十分に観測できているか
  • To-Beは、「AI導入」ではなく業務状態として定義できているか
  • Gapは、抽象的な感覚ではなく、具体的な工程まで分かれているか
  • AIへ任せる工程と、人が最終判断を持つ工程は分かれているか
  • 導入後に何を見て、何を見直すかが決まっているか

AI業務改善は、AIツールを探すところからではなく、自社の業務を、この順番で見ることから始まります。

判断の型として一度この順番を持っておくと、次に別の業務を見直すときにも、同じ流れをそのまま使えます。

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