「業務をひとつの作業」として見ていないか
AIを導入しようとするとき、多くの人がまず考えるのは「どのツールを選ぶか」です。
しかし、その前に確認すべきことがあります。
それは、今の業務を、そもそも正しく見えているかどうかです。
「請求処理」
「問い合わせ対応」
「月次決算」
——こうした業務名は、日常的に使われていますが、実際には複数の工程をまとめて呼んでいるだけのことがほとんどです。
ひとつの塊として扱ったままAI導入を検討すると、AIに任せられる部分と、人が担うべき部分が混ざったまま話が進んでしまいます。
この記事で扱うのは、AIに何をさせるかという話ではありません。
その手前にある、業務を「人・情報・判断」という3つの要素に分けて見るという基本設計についてです。
分けて見えるようになれば、どこにAIを関わらせる余地があるのか、どこに人の判断が残っているのかを検討するための土台ができます。
今回は、その「見える状態」をつくるところまでを扱います。
業務名は、複数の工程をひとまとめにした呼び名にすぎない
なぜ、業務を分解する必要があるのでしょうか。
理由は単純です。ひとつの業務の中には、性質の異なる工程が同時に含まれているからです。
たとえば「経費精算」という業務ひとつをとっても、その中には次のような工程が混在しています。
- 情報を受け取る(申請内容や領収書を受け取る)
- 内容を確認する(規程に沿っているか確かめる)
- 転記する(会計システムへ入力する)
- 照合する(過去の処理例や証憑と突き合わせる)
- 判断する(例外として認めるか、追加確認が必要か決める)
- 承認する
- 記録として残す
これらは、性質がまったく違う作業です。
情報を受け取って転記するだけの工程と、例外を認めるかどうかを判断する工程を、同じ「経費精算」という言葉でひとまとめにしてしまうと、AIをどこに関わらせるかを検討するための材料も、属人化や滞留を確認するための手がかりも見えにくくなります。
業務を塊のままAI化しようとすると、判断や例外処理まで、情報の転記や照合と同じ前提で扱ってしまうおそれがあります。
逆に言えば、業務を分解できれば、どこを詳しく確認すべきか、どこに特定の担当者への依存がありそうかを整理しやすくなります。
そこで有効なのが、業務を次の3つの軸で見る方法です。
人——誰がその業務を担当しているか、誰から誰へ受け渡しているか、特定の担当者に依存していないか、誰が最終的な責任を持つのか。
情報——何を受け取っているか、どこから来るか、どこに保存されているか、何を加工・照合・転記しているか、必要な情報が不足していないか。
判断——どの場面で判断が発生するか、判断基準は明文化されているか、例外処理が含まれているか、誰が判断する必要があるか。
この3つに分けて見ることで、「業務」という漠然とした塊が、具体的な工程の集まりとして見えてきます。
経費精算を分解してみると何が見えるか
言葉だけではイメージしづらいので、具体例で見てみましょう。
多くのバックオフィスに共通する「経費精算」を題材にします。
まず人の面から見ると、たとえば申請する社員、承認する上長、処理する経理担当者といった立場が関わります。
それぞれの間で情報がどう受け渡されているか、特定の経理担当者だけが例外処理のやり方を知っている、といった依存がないかを確認します。
次に情報です。
経費精算では、申請内容、領収書、社内規程、勘定科目、そして過去の処理例といった情報が関わります。
これらがどこに、どんな形で存在しているか
——紙で保管されているのか、システムに入っているのか、担当者の頭の中にしかないのか
——によって、業務の実態はまったく違って見えます。
そして判断です。
規程に合っているか、証憑は十分か、例外として認めるべきか、追加確認が必要か。
ここが、経費精算という業務の中でもっとも「人が判断している」部分にあたります。
こうして分けてみると、「経費精算」という業務名だけでは見えなかった構造が姿を現します。
単に情報を受け取って転記するだけの部分と、規程との照らし合わせや例外判断を要する部分は、本来まったく別の性質を持っています。
同じ業務名の中に、これだけ性質の異なる工程が同居していたことに気づくはずです。
もちろん、これは経費精算に限った話ではありません。
請求書処理でも、社内問い合わせ対応でも、契約書確認の一次受付でも、同じように「人・情報・判断」で分けてみると、業務名だけでは見えなかった構造が現れます。
ただし、業務の実態は会社ごとに異なりますから、ここで示した分け方がそのままどの会社にも当てはまるわけではありません。
あくまで、分解して見るための一つの補助線として捉えてください。
AIを入れる前に、まず業務の構造を見る
AI導入の出発点は、ツールを選ぶことではありません。
まず、今の業務がどんな構造でできているかを見ることです。
「人・情報・判断」という3つの軸に分ければ、業務名という言葉の裏に隠れていた工程の集まりが見えてきます。
誰が担い、どんな情報が動き、どこで判断が発生しているのか
——それが見えて初めて、どこにAIが関わりうるのか、どこは人が担い続けるべきなのかを検討できる状態になります。
どこまでAIに任せるか、どこを人が残すかという判断は、この構造が見えたあとに来る、次の話です。
次回は、「AIに任せる仕事、人が残す仕事
——判断工程を絞る業務設計の考え方」について扱います。
今回分解した構造を、実際にどう線引きしていくかを見ていきます。