経費精算の内部統制はどう作る?——申請・承認・支払を1人に集めないための基本設計

経費精算の内部統制はどう作る?——申請・承認・支払を1人に集めないための基本設計

経費精算の内部統制は「誰がどこを確認するか」を設計する

経費精算の内部統制を考えるとき、最初にやるべきことは、承認者を増やしたりルールを厳しくしたりすることではありません。

誰が申請し、誰が確認し、誰が承認し、誰が支払い、誰が記録するのか。

この業務フローを、まず見ることです。

経費精算は、一つの作業ではありません。

実際には、経費を使う、申請する、内容を確認する、承認する、支払う、会計へ記録する、という複数の工程に分かれています。

内部統制とは、この工程の一つひとつを誰が担当し、どこで別の人(あるいは別の仕組み)による確認が入るのかを設計することです。

もう少し具体的に言うと、見るべきポイントは一つです。

どこかの工程でミスや異常が起きたとき、別の工程でそれに気づけるかどうか。

「申請者と承認者を分ければよい」という説明だけで終わらせてしまうと、なぜそうするのかという理由が抜け落ちてしまいます。

この記事では、その理由と、実際の業務フローへの落とし込み方まで、順を追って整理していきます。


なぜ申請・承認・支払を1人に集めない方がいいのか

経費精算では、意図的な不正だけでなく、単純なミスや見落としも含め、さまざまな問題が起こり得ます。

  • 架空の経費を計上してしまう
  • 同じ経費を二重に申請してしまう
  • 業務とは関係のない私的な支出が紛れ込む
  • 金額の入力ミス
  • 領収書などの証憑が不足している
  • 承認そのものが漏れている
  • 振込先や金額を間違えて支払ってしまう

こうした問題を並べると、「不正を防ぐための仕組み」という印象を持たれるかもしれません。

ですが、内部統制の出発点はもっと地味なところにあります。

人は間違えるし、見落とす。そして、自分が行った処理を自分で確認すると、その異常に気づきにくい。

これは能力や真面目さの問題ではなく、誰にでも起こることです。

自分で申請し、自分で承認し、自分で支払い、自分で会計に記録する。

この流れをすべて一人で行った場合、途中でどこか一箇所間違えても、それをチェックする別の視点が存在しません。

金額を一桁間違えても、同じ経費を月をまたいで二重に申請してしまっても、気づく機会がないまま処理が完了してしまいます。

たとえば、申請した人とは別の人が内容を確認・承認し、承認された内容を別の担当者が支払う形にすれば、前の工程で見落とされた部分に、次の工程で気づける可能性が高くなります。

ここで初めて、専門用語を一つ紹介します。

この「役割を分けて、互いの工程をチェックできるようにする」という考え方を、会計や内部統制の分野では職務分掌と呼びます。

大切なのは、言葉そのものよりも目的のほうです。

役割を分ける目的は、社員を疑うことではありません。
ある工程で起きた問題を、別の工程で発見できるようにすることです。

「信用していないから分ける」のではなく、「誰でも間違えるから、間違いに気づける構造にしておく」という考え方だと捉えると、内部統制がやや違って見えてくるはずです。


経費精算を実際の業務フローに分解してみる

理屈だけではイメージが湧きにくいと思いますので、経費精算を実際の工程に分解してみます。

おおまかには、次のような流れになります。

工程内容
① 経費発生出張・接待・消耗品購入などで経費が発生する
② 申請経費を使った本人が、内容・金額・証憑をそろえて申請する
③ 確認内容・金額・証憑に不備がないかを確認する
④ 承認業務上の必要性を判断し、承認する
⑤ 支払承認済みのデータをもとに、実際に支払う
⑥ 会計記録支払った内容を会計上の記録として反映する
⑦ 事後確認一定期間後に、一覧や証憑を改めて確認する

この7つの工程を、誰が担当し、どこで別の視点によるチェックが入るのかを見ていきます。

ケースA|役割をある程度分けられる会社

たとえば、次のような配置が考えられます。

  • 経費を使った本人が申請する
  • 上長などが、内容や業務上の必要性を確認し承認する
  • 経理担当者が、証憑や金額に問題がないかを確認する
  • 支払担当者が、承認済みのデータをもとに支払う
  • 経理担当者などが、支払内容を会計へ記録する
  • 必要に応じて、別の担当者や責任者が事後的に一覧を確認する

この配置自体を、唯一の正解として提示するつもりはありません。

会社の規模、利用している経費精算システム、取引の量や金額、リスクの大きさによって、適した設計は変わってきます。

ここで確認したいのはあくまで、どこかでミスが起きた場合に、その後の工程で気づける形になっているかという点です。

上長の確認をすり抜けても経理担当者の確認で気づける、経理担当者が見落としても事後確認で気づける、というように、一つの工程に頼りきらない状態を作れているかを見てください。

ケースB|人数が少なく、完全には役割を分けられない会社

中小企業や小規模企業では、申請・確認・支払・記録のすべてを別の人に割り振ることが、そもそも難しい場合があります。

担当者が一人しかいない業務も珍しくありません。

このとき、「人数が少ないから内部統制はできない」と考える必要はありません。

完全な職務分掌が難しい場合には、別の方法でリスクを補うという考え方があります。

  • 経営者自身が、定期的に事後確認を行う
  • 一定額以上の経費だけ、追加の承認を設ける
  • 月次で、経費の一覧をまとめて見直す
  • 領収書などの証憑と、実際の記録を突き合わせる
  • システムの操作ログや承認ログを残しておく
  • 支払が終わった後、別の人が一覧をチェックする

ここで大切なのは、「役割を完全に分けられるか、分けられないか」という二択で考えないことです。

むしろ、分けられない工程に対して、どのような別の確認を置くかという発想に切り替えることが、小規模な会社にとっては現実的です。

すべての工程を別々の人が担当していなくても、事後確認やログの保存といった形で、後から異常に気づける仕組みを持っていれば、それも内部統制の一つの形です。

自社の経費精算を確認するチェックポイント

自社の経費精算に置き換えて確認する際は、次のような項目を見てみてください。

  • 申請者は誰か
  • 承認者は誰か
  • 証憑を確認する人は誰か
  • 支払担当者は誰か
  • 会計記録をする人は誰か
  • 同じ人が複数の工程を担当していないか
  • 同じ人が複数工程を担当している場合、別の確認工程はあるか
  • 一定額以上の取引に、追加の確認があるか
  • 承認されていない支払を防げる仕組みになっているか
  • 二重申請や二重支払を発見できるか
  • 後から、誰が何をしたのか追跡できるか
  • 定期的な事後確認の機会があるか

これは単なるチェックリストではなく、どの工程で問題が起きても、どこか別の場所で気づけるかどうかを確認するための視点として使ってください。

すべての項目に「はい」と答えること自体が目的ではありません。

答えられない項目がどこにあるかを把握し、そこに別の確認が必要かを考えることに意味があります。


内部統制は「人を疑う仕組み」ではなく「会社として気づける仕組み」

ここまでの内容を、改めて整理します。

経費精算の内部統制を考える基本的な手順は、次のような流れになります。

業務を工程へ分ける → 誰が担当しているかを見る → 判断・権限・作業が集中している場所を見つける → 別の工程で確認できる仕組みを置く

そして、この記事で一番伝えたかったことは一つです。

内部統制とは、人を疑う仕組みではなく、人が間違えても会社として気づける仕組みを作ることです。

だからといって、「申請者と承認者を必ず分けましょう」と一律に決めつけるつもりはありません。
会社の規模も、扱う経費の量も、抱えているリスクも、それぞれ違います。

最後に、一つだけ問いを残しておきます。

自社の経費精算では、もし一つの工程で間違いが起きたとき、次のどこで気づけるでしょうか。

この問いに答えられることが、自社の経費精算で、どこに確認機能があり、どこに見直す余地があるのかを考える出発点になります。

業務フローを分解すると、AIを使う場所も見えてくる

申請・確認・承認・支払・記録のように、業務を工程へ分けると、「人が判断すべき場所」と「仕組みやAIに任せられる場所」が見えやすくなります。

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