「数字の中に”誰の声”があるか?」──CFOが果たす”問い”の役割

🧭 はじめに

「このKPIで、本当に判断していいのか?」

資料は整っていても、どこか腑に落ちない──そんな会議に、CFOとして何を投げかけるか。

私は取締役CFOとして3年間在任し、数え切れないほどの経営会議に参加してきました。その中で痛感したのは、正確な数字を揃えることよりも、「その数字の意味を問うこと」の方がはるかに重要だということです。

また、上級心理カウンセラーの資格を持つ立場から、数字の背景にある人間の心理や意図を読み解くことの大切さも実感してきました。

この記事では、数字の解釈に”意味”を与えるCFOの姿勢を、実務と心理の視点から言語化してみたいと思います。

📌 第1章|CFOは「情報の番人」では終わらない

正確な資料整備の重要性と限界

たしかに、会議資料や予実報告を正確に整えることは重要です。CFOとして、数字の信頼性を担保することは基本的な責務だと考えています。

私自身、日商簿記2級の知識を基盤に、2度のIPOで開示業務や監査法人対応を経験し、数字の正確性がいかに重要かを身をもって学んできました。

しかし、正確な数字を揃えるだけでは「報告屋」に過ぎません。

CFOの真の価値は”その先”にある

CFOの真の価値は、情報から意味を引き出し、経営の意思決定に深みを与えることにあります。

例えば、「今月の売上は前年同月比115%でした」という報告があったとします。数字としては正確で、一見すると好調に見えます。

しかし、CFOが投げかけるべき問いは:

  • この115%は、どのような要因によるものか?
  • 持続可能な成長なのか、一時的な要因なのか?
  • 現場の感覚と数字は一致しているか?
  • この数字の背景にある戦略的意味は何か?

こうした問いを通じて、単なる数字の報告を経営の洞察へと変えていくことが、CFOの役割なのです。

情報から意味を引き出す技術

私がCFOとして意識してきたのは、情報を3つの層で捉えることです:

第1層:事実の層 何が起きたのか(売上が増えた、コストが下がった)

第2層:背景の層 なぜそれが起きたのか(新商品の好調、効率化の成果)

第3層:意味の層 それが経営にとって何を意味するのか(戦略の有効性、今後の方向性)

CFOは、第1層の正確性を担保しつつ、第2層・第3層の議論を促進する存在でなければなりません。

📌 第2章|数字の中に”誰の声”があるか?

数字の背景に隠れる人間の意図

上級心理カウンセラーとしての経験から言えることは、数字の背景には必ず人間の意図や感情が隠れているということです。

例えば、営業部門から上がってくる売上予算が保守的すぎる場合、そこには:

  • 達成できない目標を立てることへの不安
  • 過去の失敗体験からくる慎重さ
  • 上司への忖度や組織の空気感

こうした心理的要因が数字に反映されている可能性があります。

KPIは”見たい未来”を映す鏡

KPIの設定において、私が常に問いかけるのは「この指標は、誰の『見たい未来』を反映しているか?」ということです。

経営陣が重視したい指標と、現場が実感する重要指標は往々にして異なります。

  • 経営陣は「売上成長率」を重視するかもしれません
  • しかし現場は「顧客満足度」や「リピート率」により価値を感じているかもしれません

CFOの役割は、これらの視点を統合し、組織全体が納得できる指標体系を構築することです。

「誰の意志か」を見極める問い

私がCFOとして実践してきた問いかけの例:

数値目標について:

  • 「この目標設定の根拠は何ですか?」
  • 「現場の皆さんは、この目標をどう受け止めていますか?」
  • 「達成のために、何を犠牲にする可能性がありますか?」

KPIの設定について:

  • 「この指標で測ることで、何を促進したいのですか?」
  • 「意図しない行動を誘発するリスクはありませんか?」
  • 「現場の実感と、この数字は連動していますか?」

こうした問いを通じて、数字の中にある「声」を聞き取ることができます。

📌 第3章|問いでチームの”思考”を育てる

「この数値をどう解釈する?」という問いの力

CFOとして最も効果的だと感じるのは、「この数値をどう解釈しますか?」という問いかけです。

この問いは、単純に見えて実は非常に深い効果があります:

  1. 当事者意識の醸成:数字を「与えられたもの」から「自分で考えるもの」に変える
  2. 多角的思考の促進:一つの数字を複数の視点から検討する習慣を作る
  3. 対話の活性化:一方通行の報告から、双方向の議論に発展させる

報告を受けるだけでなく、”問い返す”姿勢

従来の経営会議では、CFOは報告を受ける側に回りがちです。しかし、私が実践してきたのは、積極的に”問い返す”姿勢です。

従来のパターン: 部長:「今月の売上は目標を5%上回りました」 CFO:「承知しました」

問い返すパターン: 部長:「今月の売上は目標を5%上回りました」 CFO:「素晴らしいですね。この5%超過について、どのような要因があったと分析されていますか?」

この小さな違いが、会議の質を大きく変えます。

対話を通じて、チームが自ら考える空気をつくる

問いかけの文化が根付くと、チーム全体の思考レベルが向上します。

報告者は、数字を発表する前に「CFOからどんな問いが来るだろうか?」と考えるようになります。これにより、より深い分析と洞察を持って会議に臨むようになるのです。

私がCFOとして目指したのは、「問いに答える文化」から「問いを立てる文化」への転換でした。

📌 第4章|”正解探し”ではなく、”意味探し”へ

CFOの問いは「間違い探し」ではない

ここで重要なのは、CFOの問いは決して「間違い探し」ではないということです。

上級心理カウンセラーとしての経験から言えることは、問い詰めるような姿勢は、かえって建設的な議論を阻害するということです。

CFOの問いは、批判ではなく探究でなければなりません。「一緒に考えましょう」という姿勢が、オープンな対話を生み出します。

数字の中にある”意味”をチームと一緒に掘り下げる

私がCFOとして心がけてきたのは、「答えを持っている人」ではなく、「一緒に答えを見つける人」になることです。

例えば、コスト削減の議論において:

答えを持っている姿勢: 「このコストは削減すべきです。理由は○○だからです」

一緒に答えを見つける姿勢: 「このコストについて、皆さんはどう考えますか?削減の余地はありそうでしょうか?一方で、削減することのリスクはどんなことが考えられるでしょうか?」

経営陣が”自分の言葉で語れる数字”を育てる

最終的にCFOが目指すべきは、経営陣の一人ひとりが「自分の言葉で数字を語れる」状態を作ることです。

数字を理解することと、数字を語れることは違います。理解は受動的ですが、語ることは能動的です。

CFOの問いかけによって、経営陣が数字を「自分ごと」として捉え、自分なりの解釈と意見を持てるようになることが重要です。

✅ まとめ:CFOは”問い”のファシリテーターである

数字を整えるのは、スタート地点に過ぎません。

私が3年間のCFO経験と心理カウンセラーとしての学びを通じて確信したことは、CFOの本質は「この数字の向こうに、誰の意志があるか?」を問い直すことにあるということです。

**問いは、経営の質を決めます。**そしてCFOは、問いを設計する存在です。

良い問いは:

  • 思考を深める
  • 対話を活性化する
  • 当事者意識を醸成する
  • 多角的な視点を促す
  • 行動を促進する

CFOとして求められるのは、数字の専門家であることはもちろんですが、それ以上に「問いの専門家」であることかもしれません。

「なぜこの数字なのか?」 「この数字は何を語っているのか?」 「私たちは、この数字から何を学ぶべきか?」

こうした問いを通じて、単なる数字の集合体を、経営の知恵へと昇華させていく。それこそが、CFOが果たすべき”問い”の役割なのです。

数字の中には、必ず誰かの声があります。現場の努力、顧客の期待、市場の変化、そして組織の意志──。CFOは、その声に耳を傾け、意味を見出し、未来への行動につなげていく。

そんな「問いのファシリテーター」としてのCFOを、私はこれからも目指していきたいと思います。


この記事は、実務経験と心理カウンセラーとしての学びを基にした個人的見解を含みます。各組織の文化や状況に応じて、適切なアプローチを選択することが重要です。


🔗 関連note記事(参考)

『数字の中に”誰の期待”が隠れているか?』
https://note.com/takebyc/n/ncfa1ed95fa8c

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