仕事で判断を求められたとき、「自分の判断で本当にいいのだろうか」と手が止まることがあります。
情報を集めても決められない。
考えれば考えるほど選択肢が増える。
周囲から「考えすぎでは」と言われても、では何を考えなければいいのか、分からなくなります。
そんなとき、自分には判断力がないのではないかと思ってしまうかもしれません。
ただ、判断が止まる原因は、必ずしも能力にあるとは限りません。
判断する前に確認すべき「前提」が曖昧なまま、答えを出そうとしている可能性があります。
最初に確認したいのは、次の3つです。
- 何について判断したいのか
- なぜ、その判断が必要なのか
- その判断の影響は、どこまで及ぶのか
この3つが見えてくると、「どうするべきか」を考えるための境界線も見えやすくなります。
判断できないとき、選択肢から考え始めていませんか
たとえば、仕事で「この業務を改善した方がいい」と感じたとします。
すぐに改善方法を調べ始めると、AI、自動化、Excel、外注、業務フローの変更など、さまざまな選択肢が出てきます。
情報を集めるほど選択肢が増え、「結局、どれがいいのだろう」と迷うことがあります。
ここで問題になっているのは、情報不足とは限りません。
そもそも、
「何を改善したいのか」
「なぜ改善するのか」
「どこまで変えていいのか」
という前提が決まっていない可能性があります。
目的地を決めないまま地図だけを詳しくしても、進む方向は決まりません。
判断も、それに近いところがあります。
判断が止まったら、最初に3つの前提を確認する
判断できないと感じたときは、いきなり答えを探すのではなく、判断の土台を確認してみます。
1.何について判断したいのか
最初に確認したいのは、判断する対象です。
「仕事を改善したい」
「副業を始めたい」
「転職するか迷っている」
これだけでは、まだ判断する対象が広すぎます。
たとえば「仕事を改善したい」であれば、
- 毎月の集計作業を短くしたい
- 上司への確認回数を減らしたい
- 部署内の情報共有を改善したい
では、必要になる判断も変わってきます。
判断する対象が広いままだと、必要な情報も際限なく増えていきます。
まずは「いま、自分は何について決めようとしているのか」を一文にしてみるとよいでしょう。
2.なぜ、その判断が必要なのか
次に確認したいのが、判断する目的です。
何かを決めようとしている以上、そこには何らかの理由があるはずです。
ところが、実際には「何をするか」ばかり考えて、「なぜ、それをするのか」が曖昧になっていることがあります。
たとえば副業を始めたい場合でも、
「毎月3万円の収入を増やしたい」
「本業では得られない経験をしたい」
「将来の独立に備えたい」
では、選ぶ副業も使える時間も変わってきます。
目的が違えば、同じ選択肢でも評価が変わります。
判断に迷ったときほど、「私は何のために、これを決めようとしているのか」と確認することが大切です。
3.その判断の影響は、どこまで及ぶのか
3つ目は、影響範囲です。
判断を重く感じるとき、実際よりも大きな決断として捉えている場合があります。
たとえば、新しい業務改善ツールを試すことと、部署全体の業務フローを変更することでは、影響の大きさが違います。
自分だけで1週間試せることなら、失敗しても戻せる可能性があります。
一方で、10人が使っている仕組みを変更するなら、周囲への影響や元に戻す手間まで考える必要があるでしょう。
ここを分けずに考えると、小さな判断まで「絶対に失敗できない決断」に見えてしまいます。
「誰に影響するのか」
「どのくらいの期間、影響するのか」
「失敗したら戻せるのか」
この3点だけでも確認すると、判断の重さを現実的に捉えやすくなります。
事例1|業務フローを改善したいが、何から変えるべきか分からない
たとえば、毎日の業務に無駄が多く、「何か改善した方がいい」と感じているとします。
しかし、業務改善について調べると、さまざまな方法が出てきます。
ここで「どの方法が一番いいか」から考えると、判断が止まりやすくなります。
そこで、3つの前提を確認します。
何について判断したいのか。
まず調べてみると、毎日30分かけている転記作業が最も気になっていることが分かりました。
なぜ判断するのか。
転記作業そのものが嫌なのではなく、その作業によって本来取り組みたい企画業務の時間が削られていることが問題でした。
影響はどこまで及ぶのか。
確認すると、その転記作業は自分だけが行っており、変更しても他のメンバーにはほとんど影響しません。
ここまで分かれば、「部署全体の業務改善」という大きな話ではなくなります。
まず自分の転記作業を1週間だけ効率化してみる。
判断の範囲をそこまで小さくできます。
最初から最適な業務フローを作る必要はありません。
戻せる範囲で試すという選択肢が見えれば、判断はかなり軽くなるでしょう。
事例2|副業を始めたいが、今始めていいのか分からない
副業でも同じです。
「副業を始めるべきか」と考えると、かなり大きな判断に見えます。
収入、本業、家族、時間、将来性など、考えることが一気に増えるからです。
そこで3つに分けます。
何について判断したいのか。
副業そのものを人生の新しい柱にするかどうかではなく、まず「自分にできる仕事があるか試してみたい」とします。
なぜ判断するのか。
月10万円をすぐに稼ぎたいわけではなく、本業以外でも収入を得られる可能性を確認しておきたいとします。
影響はどこまで及ぶのか。
本業や生活への影響を考え、最初は月5時間までにすると決めます。
すると、「副業を始めるか、始めないか」という大きな二択から、「月5時間以内で、一つ試してみるか」という小さな判断に変わります。
これなら、実際に試した結果を次の判断材料にできます。
判断とは、最初からすべてを決めることではありません。
次の判断に必要な情報を得るため、小さく決めることも判断の一つです。
事例3|転職したいが、本当に会社を辞めるべきか分からない
転職について考えていると、いつの間にか、
「今の会社に残る」
「会社を辞める」
という二択になっていることがあります。
しかし、その前に3つの前提を確認してみます。
何について判断したいのか。
会社そのものが嫌なのか、仕事内容なのか、人間関係なのか、評価制度なのかを分けます。
確認した結果、「会社を辞めたい」というより、「現在の仕事をこのまま続けたくない」という違和感だったとします。
なぜ判断するのか。
さらに考えると、給与への不満ではなく、今の部署では希望する経験を積めないことが大きな理由でした。
影響はどこまで及ぶのか。
転職すれば、会社、人間関係、収入、勤務場所など、多くのものが同時に変わる可能性があります。
一方、社内の異動であれば、変化する範囲を限定できるかもしれません。
すると、「転職するかどうか」の前に、「異動によって現在の問題を解消できるか確認する」という判断が生まれます。
もちろん、確認した結果として転職を選ぶこともあるでしょう。
重要なのは、最初から転職という大きな答えに飛びつくことではありません。
自分が解決したかった問題との境界線を確認することです。
判断力を鍛える前に、判断できる状態をつくる
「もっと判断力をつけなければ」と考えると、経験や知識、自信が足りないように感じるかもしれません。
もちろん、それらが判断に役立つ場面はあります。
しかし、経験豊富な人であっても、何を決めるのか、何のために決めるのか、どこまで影響するのかが分からなければ、判断は難しくなるでしょう。
だからこそ、判断が止まったときに必要なのは、すぐに判断力を鍛えることではありません。
まず、判断できる状態に戻すことです。
頭の中にある問題をいったん外に出し、
何を決めるのか。
なぜ決めるのか。
どこまで影響するのか。
この3つを確認します。
頭の中で複数の問題が混ざったまま答えを出そうとすると、判断は揺れやすくなります。
逆に、問題を構造化して境界線を引くと、「いま決めなくてもいいこと」まで見えてきます。
それだけでも、判断するときの正気を取り戻しやすくなると思います。
判断が止まったときの3つの質問
もし今、何かの判断で止まっているなら、紙やメモアプリに次の3つを書いてみてください。
1.私は、何について決めようとしているのか。
できるだけ一つに絞ります。
2.なぜ、いまそれを決める必要があるのか。
目的と期限を分けて考えます。
3.この判断によって、誰に、どこまで影響するのか。
あわせて「失敗したら戻せるか」も確認します。
たとえば、
「新しい仕事を任されたが、引き受けるべきか迷っている」
という状態なら、
「その仕事をすべて引き受ける必要があるのか」
「経験を積むためなのか、人手不足を埋めるためなのか」
「引き受けた場合、現在の仕事に何時間の影響が出るのか」
まで分けてみます。
すると、「引き受ける・断る」以外に、「一部だけ引き受ける」「期限を調整する」「現在の仕事を減らしてもらう」といった選択肢が見えることがあります。
判断できないのではなく、判断する単位が大きすぎただけということもあるのです。
「判断できない」と思ったら、能力ではなく前提を確認する
判断に時間がかかると、「自分には判断力がない」と考えてしまうことがあります。
しかし、その評価をする前に確認したいことがあります。
何について判断したいのか。
なぜ、その判断が必要なのか。
その判断の影響は、どこまで及ぶのか。
この3つです。
前提が曖昧なまま「どうするか」を考えても、選択肢だけが増えて、判断が進まないことがあります。
反対に、前提を一つずつ整理すると、大きく見えていた問題を小さな判断に分けられることがあります。
判断力とは、迷わず即決できる能力だけを指すものではないでしょう。
自分が何を決めようとしているのかを整理し、必要な範囲だけ決める力も、判断力の一つだと思います。
判断学として、さらに「判断そのものをどう構造化するか」を整理したい場合は、「判断を構造化できない人が、最初に整理すべき3つの前提」もあわせてご覧ください。
また、仕事を任せる・任される場面で判断の境界線が曖昧になっている場合は、「あなたの『任せた』は、本当に機能しているか」で、委譲と判断の関係を整理しています。
判断が長期間止まってしまう場合は、「判断が3ヶ月止まる人は、何を確認できていないのか」も参考になると思います。
「判断できない」と感じたとき、いきなり正しい答えを探す必要はありません。
まずは、何を、なぜ、どこまで決めるのか。
その3つを確認するところから始めてみてください。