対象読者: IPO準備中または上場企業のCFO・管理部門責任者、IR・法務・開示担当者
1. はじめに:「開示すべきか?」と問われたとき、答えられるか
「この情報、開示対象ですよね?」
IR担当からそう聞かれて、曖昧にうなずいた経験はありませんか?
上場企業において、情報開示は“誰かの担当業務”ではなく、CFO自身が責任を持つ領域です。金融商品取引法(以下、金商法)は、その根拠法となる存在。CFOがこの法律の論点を正しく理解しておくことは、投資家との信頼関係を守る第一歩です。
2. 金商法とは何か?──CFOと開示の関係性
金商法の目的は「投資者保護」と「市場の公正性維持」。 CFOの業務と直結するのは、主に以下の3領域です:
- 適時開示(ディスクロージャー)制度の運用
- 有価証券報告書・決算短信など開示資料の正確性確保
- 虚偽記載防止と訂正開示対応のリスク管理
CFOは、「開示書類への署名者」であるだけでなく、その中身と判断基準に責任を持つ説明者でもあります。
3. 適時開示──判断基準とCFOの役割
▶ 適時開示の3類型:
開示対象 | 内容例 |
---|---|
決定事実 | 役員人事、M&A、増資決定など |
発生事実 | 災害、訴訟、情報漏洩など |
決算情報 | 四半期決算・通期決算情報 |
適時開示におけるCFOの責任は、「この情報をいつ、どう開示するか」を自ら判断・設計すること。法務やIR任せにせず、リスクや投資家目線をもって対応する必要があります。
4. 開示書類における虚偽記載リスク
- 金商法では、開示書類の虚偽記載に対して発行者の責任が問われる
- 書類の正確性・網羅性・明瞭性が不足していると、訂正開示や行政指導の対象に
- 「事実に基づいていても、誤解を生む表現」は実務上の落とし穴
CFOは、表現内容と記載タイミングの両面で“開示の品質管理者”としての立場が求められます。
5. 東証・証券会社とのコミュニケーション
- 適時開示に関して、東証への事前相談が必要となるケースは多い(M&A、公募増資等)
- IR資料や開示内容について、証券会社からの修正依頼や調整提案もある
- CFOが「説明責任の窓口」として対外的にも対応できる体制が重要
6. 監査法人との連携──金商法を“話せるCFO”は強い
監査法人から「この事象、開示対象になりませんか?」と問われたとき、CFOが答えられるかどうかで、企業の開示体制の信頼性が測られます。
- 決算短信や四半期報告書に載せるべきかの判断
- 適時開示か、注記開示か、両方か
- 社内体制・経営会議との整合
これらを自信を持って説明できるCFOは、監査法人にとって信頼できるパートナーです。
7. 実務でありがちなCFOの落とし穴
誤認・対応漏れ | 想定される影響 |
適時開示の遅延 | インサイダー情報の拡散・行政指導 |
誤解を招く記載 | 訂正開示・投資家離れ |
IR・法務任せにする | 一貫性の欠如・統制不足 |
開示書類に対する理解不足 | 「署名の形骸化」+経営説明力の低下 |
8. まとめ:CFOは「開示の設計者」であり、「翻訳者」
金商法の理解は、ルールを守ること以上に、信頼を構築する経営言語の習得です。
開示は企業の意思を投資家に伝える手段。 その責任を担うCFOは、「開示すべきか?」という問いに、自分の言葉で答えられる存在であるべきです。
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