「この議案、取締役会で報告だけしておけば大丈夫ですよね?」
IPO準備中、そんなやりとりを法務と交わしたことがあるCFOは少なくないはずです。私もその一人でした。ところが、社内弁護士から返ってきたのは、こんな一言。
「取締役会規程と職務権限規程、両方を確認しないと判断できませんね」
一瞬、ドキッとしました。
CFOが「規程」に向き合わなければならない理由
取締役会での決議事項と報告事項の整理。それは、会社法上の形式ではなく、企業の意思決定の信頼性をどう支えるかという実務そのものです。
IPO準備フェーズにおいては、議事録の整備や会議体の招集方法、意思決定プロセスのルール化が審査項目そのものになります。にもかかわらず、職務権限規程や取締役会規程の整備が“ひとまず形にしただけ”で終わってしまっている企業は少なくありません。
取締役会をめぐる3つの規程とその役割
1. 取締役会規程
- どのような事項が取締役会決議の対象となるかを定義
- 資本政策、人事、重要契約などはここで整理される
2. 職務権限規程(および職務権限一覧)
- 誰が何を判断できるか(役職別の決裁権限)を明文化
- 日常の意思決定や経営会議の前提となる規程
3. 定款との整合性
- 定款で「取締役会設置会社」として定めている場合、取締役会の権限は強い
- 定款/取締役会規程/職務権限規程の“3点セット”での整合が必要
「報告でよい」と判断してはいけないケースとは?
意思決定の判断基準を“金額”や“件数”だけで決めていないでしょうか?
たとえば、以下のようなケースでは、形式的に報告で済ませようとすると、監査法人・証券会社・東証などから指摘される可能性があります。
- 金額は小さいが、外部リスクや契約条件が重い契約
- 前例のないスキームや、新たな株式発行に関する決定
- 執行部門からは“報告”として上がってきたが、実質はガバナンス上の重要判断
こうしたグレーゾーンを見極めるのもCFOの役割です。
IPO準備フェーズで見られる“意思決定の甘さ”
IPO審査・監査法人レビューで必ず見られるのは、
- 取締役会招集通知と議事録の整合性
- 決議と報告の分類の妥当性
- 規程と実態運用の一致(形式だけで終わっていないか)
形式を整えること自体は難しくありません。けれど、**「どう運用しているか」「本当に社内で機能しているか」**まで問われるのがIPOというプロセスです。
CFOが持つべき“規程を使う力”
法務部門や顧問弁護士に「これ、どっちですか?」と聞くだけでは足りません。
むしろ、CFOこそが──
- 規程を読み、意思決定のフローを整える役割を持ち
- 経営会議や役員層に「これは取締役会決議が必要です」と説明でき
- 実際に機能する規程整備と、その見直しを主導する立場
であるべきです。
規程とは、単なるルールブックではなく、**「意思決定の筋を通すための設計図」**です。
まとめ:CFOは「規程を整備する人」ではなく「規程を活かす人」へ
IPO準備企業であるかどうかに関わらず、ガバナンスが重視される時代においては、
- 規程が機能しているか?
- 経営判断に合ったプロセスが踏まれているか?
- 社内外に説明責任を果たせる設計になっているか?
これらをチェックし、整えるのはCFOの役割です。
決裁ルートの明確化は、単なる手続きではありません。 それは、信頼される意思決定の第一歩です。
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