AIが経営の現場に本格的に入り始めています。
事業計画のシミュレーション、資金繰りの予測、採用におけるスクリーニング、M&Aの価値算定まで、かつて経営者とCFOだけが担っていた領域が、AIによって“半自動化された意思決定”へと変わりつつあります。
しかし、AIが進化するほど浮き彫りになる問いがあります。
「では、人間のCFOは何をするのか?」
「経営判断の最終責任はどこにあるのか?」
私はこれまで、上場企業のCFOとして数多くの意思決定の現場に立ち会ってきました。そこで痛感したのは、AIの精度が高まっても「意思決定の品質」は自動では向上しないという事実です。
むしろ、AIが強力になればなるほど、前提を整え、文脈を読み、最終判断を下す“人間側の質” が問われます。
この視点なくして、AIを経営に取り入れることはできません。
■AIが経営の現場に入り始めた現実
いま、多くの企業でAIは「作業の効率化ツール」から「意思決定の補助ツール」へと役割が変わりつつあります。
- 事業計画の感度分析をAIが即座に出す
- キャッシュフローの悪化シナリオをAIが数十パターン生成する
- 採用候補者の適性と離職確率をAIが予測する
- M&AのバリュエーションをAIが複数手法で算出する
これらはすでに現場で起きていることであり、近未来の話ではありません。
ただ、この変化が意味するのは単なる“便利さ”ではなく、
「意思決定のスピードと精度の変化」 です。
経営判断は、もはや感覚や経験だけに頼る時代ではなくなりました。
その一方で、AIが提示する答えは“合理的”であっても“最適”とは限りません。
なぜならAIは、目に見えるデータには強いが、組織の期待・空気・政治・価値観には触れられない からです。
だからこそ、AI活用が進むほど、CFOの役割には“別の重み”がのしかかります。
■CFOの役割は「判断の最終責任者」へシフト
AIが経営判断の一部を担う時代において、CFOの役割はより「意思決定の品質管理者」に近づきます。
AIは計算できても、
- その数字を“どう読み解くべきか”
- 会社の文化や経営陣の関係に照らして“何が現実的か”
- 社長や株主が何を期待しているか
- 今期と中長期のどちらを優先すべきか
こうした複雑な文脈は、人間が理解しなければいけません。
特にCFOは、経営会議における「最後のブレーキ」または「最後のアクセル」です。
意思決定の最終段階で、
“その判断は組織として耐えられるか?”
“数字の裏側に、どんな期待やリスクが隠れているか?”
を読み解き、経営陣に提示する責任があります。
AIの予測がどんなに優れていても、経営判断の重みは消えません。
むしろAIが力を持つほど、人間側の解釈と責任が明確化される のです。
■誤差ではなく“前提”を疑う力がCFOの武器になる
AIの最大の弱点は「前提が間違っても気づかない」という点です。
たとえば、
- 市場成長率の前提
- 粗利率の改善幅
- 採用速度
- 調達コストの変動
- 顧客単価のトレンド
これらが少しでもズレると、AIの出力はすべて誤った方向に進みます。
AIは計算過程で誤差を出すことは少ないですが、前提条件が誤っていれば、導かれる答えはすべて正しく見える“誤答” になります。
だからこそ、CFOには
「その前提は本当に正しいのか?」
を問い続ける役割があります。
私がCFOとして感じたのは、前提を疑える人は、数字そのものよりも“経営の空気”を観察しています。
- 営業現場の温度感
- プロダクトの伸び方
- 組織が感じている疲弊
- 競争環境の空気
こうした非定量の情報と、AIが吐き出す数字を突き合わせて初めて、正しい意思決定ができます。
前提を疑えるCFOは、AI時代でも価値を発揮し続けます。
■結論:AIと人間の役割分担をデザインするのがCFO
AIが経営判断に深く入り込む時代において、CFOの役割は 「人間が判断すべき領域を守ること」 にあります。
- 数値計算や大量データ処理はAI
- 仮説設定と前提の妥当性判断はCFO
- 組織の期待・空気・文化を踏まえた最終判断は経営陣
この役割分担を“経営の仕組み”としてデザインすることこそ、AI時代のCFOに求められる仕事です。
経営は、数字と感情の両方で成り立っています。
AIが扱えるのは数字の部分だけ。
人間が担うべきは“文脈”と“責任”です。
だからこそ、AIがどれだけ発達しても、
意思決定の品質を担保できるCFOは、企業の未来を決める存在であり続けます。