数字に覚悟はあるか──予算会議を“未来会議”に変えるためにCFOができること

「来期は売上1.5倍、コストは横ばいで」

そんな目標が当然のように並ぶ予算会議で、私はふと立ち止まりました。この数字は誰が責任を持つのか? 誰が、どうやってこの数字を実現すると言えるのか?

上場企業のCFOとして数多くの会議に臨む中で、予算会議はしばしば”調整の場”と化していることに気づきました。本来、予算とは「未来の意思決定を言語化したもの」です。そしてその会議は、経営陣が腹を割って対話するための貴重な時間のはず。

この記事では、CFOの立場から見た予算会議の本質と、変革のための実践フレームをお伝えします。

🧩 第1章|よくある予算会議の実態

多くの企業の予算会議には、共通する問題があります。

まず、前年実績を起点とした「積み上げ思考」が蔓延しています。昨年が3億円だったから今年は3.5億円、来年は4億円といった具合に、根拠のない成長率で数字を積み上げていく。これでは戦略的な意思決定とは程遠い状況です。

次に、売上は”希望”、コストは”現実”として扱われる傾向があります。売上目標は楽観的な数字を設定する一方で、コスト削減については現実的な制約を前提とする。この非対称性が、実現可能性の低い予算を生み出します。

さらに、社長の意向を忖度した”調整型”目標設定が横行しています。「社長が売上2倍と言っているから、なんとか1.8倍で着地させよう」といった具合に、数字ありきの調整が行われる。これでは、経営戦略としての予算とは呼べません。

結果として、会議後に再調整・やり直しが常態化し、予算策定プロセス自体が形骸化してしまいます。数字の積み上げではなく、未来の構造化が必要なのです。

💡 第2章|「その数字、誰の期待ですか?」

数字には期待が乗っています。その期待が「誰のものか」によって、意味が変わります。

投資家の期待なのか、社長の期待なのか、現場の期待なのか。同じ売上10億円という目標でも、その背景にある期待の性質によって、アプローチは全く異なります。

また、その目標は希望なのか、約束なのかという質的な違いも重要です。希望的観測に基づく目標と、具体的な戦略に裏打ちされた約束では、マネジメントの在り方が根本的に変わります。

さらに、達成手段が明確なのか、ただの願望なのかという実現可能性の視点も欠かせません。「新規事業で2億円」と言っても、その新規事業の内容、投資計画、リスク評価が明確でなければ、単なる希望的観測に過ぎません。

CFOが果たすべき役割は、この”背景の期待”を言語化することにあります。数字を問うとは、経営の意志を問うこと。それがCFOの視座です。

🧭 第3章|予算会議を「未来を語る場」に変えるには

予算会議を”戦略の言語化の場”に変えるには、以下の3つのフレームが有効です。

フレーム1:前提の共有

まず、マーケット環境、競合動向、採用・組織状況といった外部環境と内部状況を共有します。これらの前提条件なくして、数字の議論は成り立ちません。投資方針や成長戦略の大枠についても、このタイミングで認識を揃えておくことが重要です。

フレーム2:数字の目的を言語化

なぜその目標値なのか、背景とKPIを明確にします。単に「売上を伸ばしたい」ではなく、「新規顧客獲得により既存事業の収益性を向上させ、次の投資原資を確保する」といった具合に、数字の意図を言語化します。どんな未来を目指しているのかというビジョンとの紐付けも不可欠です。

フレーム3:意見が出る会議設計

「まずは現場視点から」など発言順序を設定し、多様な視点が出やすい環境を作ります。CFO質問リストを事前配布することで、参加者の準備度を高め、建設的な議論を促進します。

予算会議に”対話”を持ち込むための設計が鍵になります。一方通行の報告会ではなく、相互作用のある議論の場として機能させることが重要です。

🎯 第4章|CFOとして問うべき”たった一つの質問”

「その数字に、あなた自身の”責任と覚悟”はありますか?」

この一言が、予算をただの数字から”経営判断”へと昇華させます。

「やらされてる数字」なのか「腹落ちした数字」なのか。担当者が自分の言葉で語れるかどうか。そして、CFO自身が”背中で示せる”かどうか。

数字には覚悟が宿ります。それが、予算を生きた経営に変える起点になります。

この質問の背景には、数字の所有者を明確にするという意図があります。所有者のいない数字は、結果的に誰も責任を取らない数字になってしまいます。一方、明確な所有者がいる数字は、その人の行動と成果に直結し、組織全体の推進力となります。

CFOの役割は、この「責任と覚悟」を引き出すファシリテーターでもあります。数字の妥当性を検証するだけでなく、その数字に込められた想いと決意を組織全体で共有することが、予算を実行力のある経営計画に変える鍵となります。

✅ まとめ|予算とは、経営者の未来への意思表示である

予算は未来の選択です。その選択をどう言語化し、どう背負うか。CFOは、数字の調整役ではなく、未来の編集者であるべきです。

「なぜこの数字か」を問い、「誰が責任を持つか」を明らかにし、「何に貢献するか」を対話する。その積み重ねが、経営と現場を繋ぐ”数字の物語”を生み出します。

予算会議の変革は、組織の意思決定プロセス全体の変革につながります。CFOとしての経験を通じて得た確信は、数字の向こう側にある人間の意志と行動にこそ、企業の未来があるということです。

予算を通じて、組織の可能性を最大化する。それが、CFOの真の使命なのです。

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▶️ 「元上場企業CFOの予算会議術|数字に込める覚悟と経営判断のリアル」

https://note.com/takebyc/n/nac381d9ae6ae

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