夕食後の静かな時間。穏やかな空気のなかで交わされた、夫の「次はBMWに乗りたいんだよな」という一言。その瞬間、心の温度差がそっと顔を出すことがあります。相手は夢を語っているつもりでも、家計を預かる側にとっては現実の数字が頭をよぎる。このすれ違いの正体と、飲み込んだ言葉が積み重なる理由を、心理と家計の両面から見つめ直します。
夕食を終えた金曜日の夜。照明を少し落としたリビングには、静かな番組の音だけが漂っていました。夫婦それぞれが一日の疲れを抱えたまま、ようやく訪れた落ち着いた時間。そんな空気のなかで、夫がふと口にした「次の車検っていつだっけ?」という一言が、思いがけず心の温度差を浮かび上がらせることがあります。
続けて語られた「そろそろBMWに乗りたいんだよな」という夢。夫は子どものような笑顔で画面を見せてくれる。その表情には悪意なんてひとつもなく、ただ純粋に“未来の楽しみ”を描いているだけです。
けれど、家計を預かる側にとっては、数字が反射的に浮かび上がります。来年の車検費用、固定資産税、旅行の積立、教育費…。現実的な支出の一覧が頭の中で自動的に並び、喉の奥に「今の家計でそれは難しい」という言葉が形になる。
多くの夫婦で、この“視点の違い”が思わぬすれ違いを生んでいます。 夢を語る側は「愛情や希望としての未来」を見ています。一方で家計を管理する側は「家族を守るための足元」を見ています。どちらも正しく、どちらも家族を思っている。ただ、視点の高さが違うだけなのです。
だからこそ、飲み込んだ言葉は小さな“しこり”になっていきます。 「どうせ言っても伝わらない」 「現実を見てくれない」 そんな気持ちが知らないうちに蓄積され、会話の空気を静かに曇らせていきます。便利な相槌の「そうだね」は、場を壊さない代わりに、心の距離をゆっくりと広げてしまうことがあるのです。
家計の相談を受けていると、この“飲み込む癖”が続いている方は非常に多く、そしてそれは家計の問題ではなく、二人の距離感の問題と結びついていることがほとんどです。
家計の不安をひとりで抱え込まず、[夫婦の夢や目標の「ズレ」に気づくこと]が、対話の第一歩になります。
本当に大切なのは“夢を否定すること”ではありません。 「その未来を叶えるために、今の家計だと何が必要か」を、同じテーブルの上に並べて一緒に整理することです。 夢を支えるのも家族。 現実を守るのも家族。 その二つが対立するのではなく、同じ方向に向いて歩けるように、心のピントを合わせていくこと。これは数字の整理だけではなく、会話の空気を整えることでも実現できます。 もし今、あなたがパートナーに向けて作り笑いをしている自分に気づいたなら、それは心の距離が少しだけ離れているサインかもしれません。解決を急ぐ必要はありません。まずはそのズレにそっと気づいてあげることから始めてみてください。