「損益計算書(Profit and Loss Statement:会計業界ではPL(ピーエル)と呼ばれます。)」は、会社の“稼ぐ力”を示すツールです。
事業年度や四半期など一定期間における売上(稼いだ金額)と費用(使った金額)、そしてその結果生じた利益を表示します。
PLは、売上から費用を差し引いて最終的な利益を算出し、会社の『働きぶり』を数字で表したものです。
損益計算書(PL)のイメージ
項目 | 金額(百万円) |
---|---|
売上高 | 1,000 |
売上原価 | 600 |
売上総利益 | 400 |
販売費及び一般管理費 | 200 |
営業利益 | 200 |
営業外収益 (例:受取利息) | 10 |
営業外費用 (例:支払利息) | 5 |
経常利益 | 205 |
特別利益 (例:設備売却益) | 20 |
特別損失 (例:減損損失) | 10 |
税引前当期純利益 | 215 |
法人税等(法人税や住民税など)および調整額 | 65 |
当期純利益 | 150 |
この流れを通じて、会社がどれだけ稼ぎ(売上)、どれだけ使い(費用)、最終的にどれだけ残したか(利益)を把握できる仕組みです。
たとえば、個人に置きかえると?
- 売上高:収入(例:会社員の給与30万円)
- 売上原価:生活に必要な直接的なコスト(例:食費や交通費10万円)
- 販売費及び一般管理費:毎月の固定費(例:家賃や通信費8万円)
- 営業利益:毎月の自由に使えるお金(例:12万円)
- 税金支払い後の手取り:当期純利益(例:税金3万円を引いた9万円)
会社も同様で、PLを通じて売上、費用、利益の構造を把握し、収益力を評価できます。
【実務で見ておきたいポイント】
売上総利益
- 売上に対してどれくらい儲けがあるのか?
売上総利益率(=売上総利益 ÷ 売上高)を確認しましょう。たとえば、売上高1,000万円、売上原価600万円の場合、売上総利益は400万円、利益率は40%(400 ÷ 1,000)です。業界平均(例:製造業では30~40%)と比較し、低い場合は原価削減の余地があるかもしれません。 - 過去年度との比較で異常を確認
過去3年間の売上総利益率の推移を見て、急激な変動がないか確認します。たとえば、前年が40%だった利益率が今年は25%に下がった場合、原価の高騰や価格競争の影響が考えられます。
販売費及び一般管理費
- 人件費の割合を確認
販売費及び一般管理費の中で人件費が占める割合をチェックしましょう。たとえば、販売費及び一般管理費が200万円で人件費が120万円の場合、人件費の割合は60%(120 ÷ 200)です。割合が高い場合、人件費の見直し(例:業務効率化による残業削減)を検討する必要があります。 - 業種ごとの目安をチェック
販売費及び一般管理費の売上高に対する割合は、業種によって異なります。たとえば、小売業では20~30%が目安ですが、IT企業では人件費が多いため40%程度でも許容範囲の場合があります。自社の割合が業界平均を超える場合、コスト構造を見直す必要があるかもしれません。
営業利益・経常利益
- 本業でちゃんと利益が出ているか?
営業利益は本業(売上から原価と販売費及び一般管理費を引いたもの)での収益力を示します。たとえば、売上高1,000万円、売上原価600万円、販売費及び一般管理費200万円の場合、営業利益は200万円です。営業利益がマイナスの場合、本業が赤字であり、事業モデルの見直しが必要かもしれません。 - 営業外収益が多すぎると注意
経常利益には営業外収益(例:受取利息、配当金)が含まれます。たとえば、経常利益が250万円で営業外収益が100万円の場合、本業以外の収益が利益を押し上げていることになります。本業が不調なのに営業外収益で利益を補っている場合、持続可能性に課題があるので注意が必要です。
特別利益・特別損失
- イレギュラーな要素は何か?
特別利益(例:使わなくなった設備を売却して得た利益)や特別損失(例:資産の価値が下がった際の減損損失)は、本業以外のイレギュラーな収支です。たとえば、設備売却益で50万円の特別利益が出た場合、一時的な収益として計上されますが、これが利益全体に大きく影響する場合は本業の収益力が低い可能性があります。 - 毎期出ているなら要注意
特別損失が毎期発生する場合(例:毎年減損損失を計上している)、それは「特別」ではなく構造的な問題の可能性があります。たとえば、遊休資産(使われていない設備)が多く、毎年減損処理が必要な場合、資産管理や投資判断に課題があるかもしれません。
当期純利益
- 「会社に残ったお金」を過大評価しない
当期純利益は最終的な利益ですが、実際のキャッシュ(現金)とは異なります。たとえば、当期純利益が150万円でも、売掛金として未回収の金額が含まれている場合、実際のキャッシュは少ない可能性があります。利益が出ていても資金繰りが厳しい場合があるので、過信は禁物です。 - キャッシュフローとの違いに注意
当期純利益は「会計上の利益」であり、キャッシュの動きを直接反映しません。たとえば、減価償却費(現金支出を伴わない費用)が100万円計上されている場合、実際のキャッシュは当期純利益よりも多い可能性があります。この違いを理解するには、次章で解説するキャッシュフロー計算書(CF)を確認する必要があります。
【まとめ】
損益計算書は、単に「儲かった、損した」を見るだけではありません。
- どこで儲かっているか:本業(営業利益)か、投資(営業外収益)か
- どこにコストをかけているか:人件費や広告費(販売費及び一般管理費)、一時的な損失(特別損失)か
- どんな利益構造か:売上総利益率や営業利益率を通じて、収益力やコスト管理のバランスを評価
会社の『収益力』を知るための表。
CFOとしても、家計管理者としても、この「稼ぐ力」を読み解く力はとても大切です。
利益が出ているだけでは『いい会社』とは言えません。どんな計画を立て、どのような支出が計上され、その結果どうなっているかを、財務諸表や補足資料を通じてしっかり確認することが重要です。
この記事は、これから経営に関わる人、CFOやFPなど、数字と向き合う人に向けて書いています。
【経営と数字のリアルシリーズ】第1章では、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)を通じて会社の『体力』と『稼ぐ力』を学びました。次回の第2章では、キャッシュフロー計算書(CF)をテーマに、会社の『お金の流れ』を分析するポイントを詳しく解説します。BSやPLだけでは見えない資金繰りの実態を把握し、財務全体の理解をさらに深めましょう。次回もお見逃しなく!