「貸借対照表(Balance Sheet:会計業界では頭文字をとってBS(ビーエス)と呼ばれます。以降は「BS」と表記します。)」と聞くと、一見難しそうな名前に思えるかもしれませんが、実はとてもシンプルな表です。
でも、実はとてもシンプルな表です。
BSは、会社の“体力”を映し出す鏡のようなものです。
BSの構成
BSは、事業年度末時点で会社が持つ資産、負債、純資産を示したものです。
- 左側:「資産」(持っているもの)
- 流動資産(1年以内に現金化または費用化できる資産):現金・預金、売掛金、前払費用など
- 固定資産(1年を超えて保有する資産):建物、ソフトウェア、繰延税金資産など
- 右側:「負債と純資産」(借りたものと自分のもの)
- 流動負債(1年以内に返済期限が到来する負債):買掛金、未払金、前受金など
- 純資産(自己資本):資本金、利益剰余金など
この構造は以下のシンプルな等式で成り立っています:
資産 = 負債 + 純資産
※この等式は、資産が負債と純資産で賄われていることを示す基本原理です。詳細は別の機会に解説します。
勘定科目は基本的にルールで定められていますが、BSを含む財務諸表をわかりやすくするために、会社がある程度自由に設定できます。
※上場会社の場合、勘定科目名や開示内容は会計基準(例:日本ではJ-GAAPやIFRS)に基づき細かく定められています。
貸借対照表(BS)のイメージ
資産の部 | 金額(万円) | 負債・純資産の部 | 金額(万円) |
---|---|---|---|
流動資産 | 100 | 流動負債 | 50 |
現金・預金 | 30 | 買掛金 | 20 |
売掛金 | 50 | 未払金 | 20 |
前払費用 | 20 | 前受金 | 10 |
固定資産 | 200 | 純資産 | 250 |
建物 | 150 | 資本金 | 100 |
ソフトウェア | 30 | 利益剰余金 | 150 |
繰延税金資産 | 20 | ||
合計 | 300 | 合計 | 300 |
※資産(300万円)=負債(50万円)+純資産(250万円)
※会計基準には「ワンイヤー・ルール(1年基準)」があります。資産や負債を流動(短期)と固定(長期)に分ける際、決算日の翌日から1年以内に現金化・費用化されるか、返済期限が到来するかを基準とします。たとえば、1年以内に回収できる売掛金は「流動資産」、1年を超えて保有する建物は「固定資産」に分類されます。
このBSを、たとえば個人に置きかえると?
- 資産:家、車、預金
- 負債:住宅ローン、カードローン
- 純資産:資産から負債を引いた自分の本当の財産
会社も同様で、BSを通じて保有する財産(資産)、借金(負債)、自己資本(純資産)を一目で確認できます。
どんな財産を持ち、どれくらい借金があり、最終的にどれだけ自分たちの蓄え(純資産)があるのかを、一目で見られるのがBSです。
【実務で見ておきたいポイント】
資産を見るとき
現金・預金が多いと優良な会社?
現金・預金は、会社がすぐに = すぐに使えるお金(現金や銀行預金)を指します。現金・預金が多いと資金繰りが安定しているように見えるため、優良な会社と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。以下のような点を考慮する必要があります:
- 現金・預金が多い場合のメリット:急な出費や不測の事態(例:売上が減少したとき)に備えられるため、倒産リスクが低いとされます。たとえば、突然の大口取引先が支払いを遅らせた場合でも、従業員の給与や仕入れ代金を支払う余裕が生まれます。
- 現金・預金が多すぎる場合の課題:逆に、現金・預金が過剰にある場合、資金を有効活用していない可能性があります。たとえば、成長のための設備投資や新商品開発に使わず、ただ銀行に眠らせているだけなら、会社の成長機会を逃しているかもしれません。
- 投資家の視点:投資家から見ると、過剰な現金・預金は「適切に再配分されていない」と見なされることがあります。たとえば、株主への配当や事業拡大に使うべき資金が使われていない場合、投資が見送られることも。
注意点:現金・預金の多寡だけで優良かどうかを判断せず、会社の事業規模や業界特性と照らし合わせることが重要です。たとえば、景気変動の激しい業界(例:建設業)では多めの現金・預金が必要ですが、安定したキャッシュフローが見込める業界(例:サブスクリプションサービス)では少なめでも問題ない場合があります。資金の運用効率とリスク管理のバランスを見極めましょう。
売掛金の適正残高は?
売掛金は、商品やサービスを提供した後に顧客から受け取る予定の代金を指します。売上が増えるほど売掛金も増えますが、適正な残高かどうかを確認することが重要です。以下のようなポイントで評価できます:
- 回収スピードの確認:売掛金の回収期間が長すぎると、資金繰りに影響が出るリスクがあります。簡単な確認方法として、売掛金残高を月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)で割る方法があります。たとえば、売掛金が1億円、月商が5,000万円の場合、1億円 ÷ 5,000万円 = 2ヶ月となり、平均2ヶ月で回収できていることがわかります。
- 業界基準との比較:業界によって回収期間の標準が異なります。たとえば、小売業では即時決済が多いため回収期間が短いですが、製造業や建設業では1~3ヶ月が一般的です。自社の回収期間が業界平均より長い場合、回収プロセスを見直す必要があります。
- 滞留リスクのチェック:売掛金の中に長期間回収できていないものが含まれている場合、貸倒れ(回収不能)のリスクが高まります。たとえば、取引先が倒産した場合、売掛金が回収できなくなる可能性も。定期的に滞留状況を確認し、必要なら督促や契約条件の見直しを行いましょう。
注意点:売掛金が多い場合、売上が好調に見えても、実際のキャッシュが入ってこなければ資金繰りが悪化します。回収期間が長くなるほど、利息負担や資金不足のリスクが高まるため、早めの回収を心がけることが重要です。たとえば、回収期間が3ヶ月を超える場合は、支払い条件(例:前払い割引)を導入するなどの対策を検討しましょう。
ソフトウェアは何を計上している?
ソフトウェアは、固定資産の一種として貸借対照表に計上されるもので、会社が業務やサービス提供のために使用するプログラムやシステムを指します。主な計上内容としては以下のようなものがあります:
- 自社開発のソフトウェア:自社で開発した業務システムやアプリ。たとえば、ECサイト運営企業が自社で開発したオンラインショップのプラットフォームは、開発コスト(人件費や外注費など)をソフトウェアとして資産計上します。
- 購入したソフトウェア:外部から購入したソフト(例:会計ソフト、CRMシステム)も計上されます。たとえば、Microsoft OfficeやSAPのようなライセンス費用が該当します。
- カスタマイズ費用:購入したソフトウェアを自社用にカスタマイズした場合、そのカスタマイズ費用もソフトウェアとして計上されることがあります。
注意点:ソフトウェアは資産として計上されますが、実際の価値があるかどうかを慎重に見極める必要があります。たとえば、開発したシステムが使われていない(遊休資産)場合、資産としての価値はゼロに近くなります。会計ルール上、価値がないと判断された場合、その事業年度で「減損処理」(資産の価値を帳簿上減らす処理)を行う必要があります。遊休資産を放置すると、貸借対照表が実態とかい離し、会社の財務状況を正しく反映できなくなるため、定期的な見直しが重要です。
負債を見るとき
買掛金の適正残高は?
買掛金は、仕入れやサービスを受けた際にまだ支払っていない代金を指します。会社がサプライヤーや取引先に支払うべき金額で、負債の一部です。適正な残高かどうかを確認するためには以下のポイントをチェックしましょう:
- 支払いサイト(支払い期間)の確認:買掛金の支払い期限が業界標準や契約条件と比べて適切かどうかを確認します。たとえば、業界標準が30日以内の支払いなのに、自社の支払いサイトが60日を超えている場合、資金繰りに問題があると見なされる可能性があります。
- 月の仕入高との比較:買掛金の残高を月の仕入高(年間仕入高 ÷ 12ヶ月)で割ることで、支払い期間を把握できます。たとえば、買掛金が6,000万円、月仕入高が3,000万円の場合、6,000万円 ÷ 3,000万円 = 2ヶ月となり、平均2ヶ月で支払っていることになります。
- 支払い遅延のリスク:支払いサイトが長すぎると、取引先との信頼関係が損なわれたり、遅延損害金が発生したりするリスクがあります。たとえば、支払いが遅れることで仕入れ条件が悪化し、割引が受けられなくなることも。
注意点:買掛金が多すぎると、資金繰りに負担がかかり、支払い遅延のリスクが高まります。逆に少なすぎる場合、資金を有効活用できていない可能性も。適正な残高は会社のキャッシュフローや仕入れ規模に応じて異なりますが、支払いサイトが長くなりすぎないよう、資金計画をしっかり立てることが重要です。たとえば、支払いサイトが長くなる場合は、取引先と交渉して条件を見直すなどの対策を検討しましょう。
未払金の内訳は何?
未払金とは、支払い義務が生じているものの、まだ支払いが完了していない金額を指します。主な内訳としては、以下のような項目が含まれます:
- 給与や賞与:従業員に支払うべき給与やボーナスで、決算時点でまだ支払っていないもの。たとえば、3月分の給与が4月に支払われる場合、3月末時点では未払金として計上されます。
- 資産購入時の未払い分:設備や備品などの資産を購入した際に、まだ支払っていない代金。たとえば、機械を100万円で購入し、支払いが翌月に持ち越された場合、その100万円が未払金となります。
- 外注費やサービス利用料:外部の業者に依頼したサービス(例:広告費、コンサルティング料)の支払いが未了の場合も未払金に含まれます。
- 税金や社会保険料:法人税や源泉徴収税、社会保険料など、支払い期限が到来していない税金や保険料も該当します。
注意点:未払金は一見小さな金額に見えても、積み重なると資金繰りに大きな負担となることがあります。たとえば、未払いの給与が多い場合、従業員への支払いが遅れるリスクが高まり、信頼関係に影響する可能性も。内訳を細かく把握し、支払いスケジュールを管理することが重要です。
前受金の内訳は何?
前受金とは、商品やサービスの提供前に顧客から受け取った代金を指します。会社にとっては将来の債務(サービス提供や商品引き渡しの義務)となるため、負債として計上されます。主な内訳としては以下の通りです:
- 売上の先取り:商品やサービスを提供する前に受け取った売上代金。たとえば、年間契約のサブスクリプションサービスで、1年分の料金を前払いで受け取った場合、その金額が前受金となります。
- 預り金:顧客から一時的に預かっているお金で、特定の条件が満たされると返還するもの。たとえば、賃貸契約時の敷金や、イベントの予約金などが該当します。
- 工事関連の前払い金:建設業や製造業では、工事や製造の進行前に顧客から受け取る着手金が前受金として計上されることが多いです。
注意点:前受金は、受け取った時点では会社の収入にはならず、サービス提供後に売上として計上されます。そのため、受け取った金額に見合ったサービスや商品を提供できない場合、返還リスクが生じます。たとえば、サブスクリプションサービスで解約が多発した場合、前受金を返金する必要が出てくることも。金額や条件を正確に管理し、返還リスクに備えることが大切です。
純資産を見るとき
創業年数から見た利益剰余金は適正?
利益剰余金は、会社がこれまでに稼いだ利益のうち、配当などで外部に支払わず内部に蓄積した金額を指します。創業年数との関係で見ることで、会社の利益創出力や成長の健全性を評価できます。以下のようなポイントで確認しましょう:
- 創業年数との比較:創業年数が長い会社ほど、利益剰余金が積み上がっているのが一般的です。たとえば、創業10年で利益剰余金が1億円の場合、年平均1,000万円の利益を積み上げてきた計算になります。一方、創業30年で利益剰余金が5,000万円しかない場合、年平均約167万円となり、利益創出に課題がある可能性があります。
- 業界や事業規模との比較:利益剰余金の適正額は、業界や会社の規模によって異なります。たとえば、成長産業(ITやテクノロジー企業)では利益を再投資するため利益剰余金が少なくても問題ない場合がありますが、成熟産業(製造業など)では安定した利益の蓄積が求められます。
- 利益創出力の評価:利益剰余金が少ない場合、過去の投資が回収できていないか、利益率が低い可能性があります。たとえば、新規事業に多額の投資をしたものの成果が出ず、赤字が続いている場合、利益剰余金がマイナスになることもあります。
注意点:利益剰余金が創業年数の割に少ない場合、投資回収や利益創出に課題があるかもしれません。たとえば、過剰な設備投資や不採算事業が原因で利益が圧迫されている可能性も。逆に、利益剰余金が多すぎる場合は、成長のための再投資が不足している可能性があります。利益剰余金の推移を過去数年分確認し、増減の背景(例:配当政策、投資状況)を分析することが重要です。
資本金はもちろん、資本剰余金も重要
資本金は、会社設立時や増資時に株主から集めた資金で、純資産の一部を構成します。一方、資本剰余金は、増資時に資本金に組み入れなかったプレミアム部分(株式発行時の追加的な資金)などを指します。両者は会社の財務基盤を評価する上で重要な要素です。以下のようなポイントを確認しましょう:
- 資本金の役割:資本金は会社の設立資金や事業運営の基盤となるお金です。たとえば、資本金1,000万円で設立した会社の場合、この金額が初期の運転資金や設備投資に使われます。資本金が多いほど、外部からの借入に頼らずに事業を始められるため、財務の安定性が高まります。
- 資本剰余金の内訳:資本剰余金には、株式発行益(例:1株1,000円で発行した株式を1,500円で売却した場合の差額500円)や、資本準備金などが含まれます。たとえば、増資で1億円を調達し、そのうち3,000万円を資本金、7,000万円を資本剰余金とした場合、資本剰余金は将来の損失補填や配当に活用できる資金となります。
- 増資・減資の背景分析:増資や減資の履歴がある場合、その背景を詳しく見ることが重要です。たとえば、増資は事業拡大や資金調達の必要性(例:新工場建設のための資金調達)を示しますが、過剰な増資は株主の持ち分希薄化を招くリスクがあります。一方、減資は累積赤字の解消や財務体質の改善(例:債務超過の解消)を目的としている場合が多いです。
注意点:資本金と資本剰余金は、会社の自己資本の基盤を表す指標です。資本金が少ない場合、資金調達力や信頼性が低く見られる可能性があります(例:金融機関からの融資が受けにくい)。また、資本剰余金が多い場合、資金の余裕がある一方で、再投資や株主還元が不足している可能性も。増資や減資の履歴がある場合は、その目的(例:事業拡大、財務改善)と結果(例:業績向上)を確認し、財務戦略が適切かどうかを評価しましょう。
【まとめ】
BSは単なる数字の羅列ではなく、会社の財務状況を映し出す重要なツールです。
- どれだけの資産を持っているか
- どれだけの負債を抱えているか
- どれだけの自己資本(純資産)を積み上げているか
これらを通じて、会社の“健康状態”を把握できます。
CFOやFP、経営に関わる方、そして家計管理者として、BSを読み解く力は不可欠です。次章では、BSを活用した具体的な分析方法を解説します。
【経営と数字のリアルシリーズ】第1章では、貸借対照表(BS)を通じて会社の“体力”を見る方法を学びました。次回の第2章では、損益計算書(PL)をテーマに、会社の“収益力”を分析するポイントを詳しく解説します。BSとPLを組み合わせることで、財務全体の理解がさらに深まります。次回もお見逃しなく!