会計の専門家でファイナンシャルプランナーのよしはるです。決算書分析は、正直なところ非常に手間がかかる作業です。財務データを睨み、電卓を叩く作業に半日を費やすことも少なくありません。この面倒な作業から解放され、クライアントとの会話の空気をより良くするために、ベテランFPの私がChatGPT-4の分析能力を徹底検証しました。AIは単なるツールか、それとも深い洞察をもたらす相棒か。実務者目線での正直な検証結果をご覧ください。
煩雑な決算書分析から解放される可能性
決算書分析、正直面倒くさくありませんか?財務データを睨み、電卓を叩き、比率を計算し、グラフ化して…気がつけば半日が終わっている。クライアントに「で、結局ウチはどうなの?」と聞かれたときに、その手間をかけたデータから深い洞察を引き出せなければ、それはただの作業です。
ベテランFPがChatGPT-4に託した目的
ベテランFPの私が、この面倒な作業から解放されるため、話題のChatGPTに白羽の矢を立ててみました。AIは単なる優秀な電卓か、それとも経験豊富な分析官か?今回は、FPの私が実際に手を動かし、ChatGPTが「どこまで正確に」「どこまで深く」決算書を分析できるのかを、実務者目線で正直に検証します。AIを業務効率化の武器にするための、生々しい検証結果をご覧ください。
検証の前提と「安全性・収益性」への着目点
この検証の目的は、AIがFPの業務効率化に役立つか、そして分析の質をどこまで担保できるかを見極めることです。今回は、誰でもアクセスできる上場企業の公開データ(直近3年分)を使用しました。検証の対象は、企業の安全性(倒産リスク)と収益性(稼ぐ力)の2点に絞り、最新のChatGPT-4を使用しています。単なるツール紹介ではなく、「業務効率化」と「分析の質」への影響を評価することが重要です。
検証1:AIは「優秀すぎる電卓」になれるか(正確性の評価)
まずは、最も基本的な「計算」から試しました。
初期計算・比率算出における正確性の検証
指示内容は、過去3年の損益計算書と貸借対照表の主要項目を抽出し、「流動比率」「自己資本比率」といった基本的な比率を算出しなさい、というものです。結果は文句なし。正確性はほぼ100%でした。データ形式が整っているPDFやCSVをアップロードした場合、ChatGPTは瞬時にデータを読み込み、正確な比率を返してくれます。
人為的エラーの排除とFPが回すべき時間
手作業で電卓を叩く時間は完全にゼロにできます。これはもはや、優秀すぎる電卓です。計算ミスという人的エラーを排除できるのは大きなメリットです。初期の数値計算・抽出はAIに完全に任せて問題ありません。FPは、この時間をクライアントへの提案資料作成や、数字の裏にある定性情報のヒアリングに回すべきでしょう。この効率化は、共働き夫婦の限られた時間の中で最大の成果を出すための鍵となります。
検証2:AIは「経験豊富な分析官」になれるか(深度の評価)
ここからが本番です。単なる計算結果ではなく、実務で使える洞察(インサイト)を出せるか検証しました。
財務比率の「意味」と業界特有の事情
次に、「流動比率が90%ですが、これはどういう意味で、どのようなリスクが考えられますか?」と質問しました。
結果は一般的な解説としては完璧でした。
「流動負債を流動資産で賄えない可能性があり、短期的な資金繰りに懸念があります」と模範解答が返ってきました。
しかし、それ以上は踏み込めません。「流動資産の内訳で売掛金が多いのか、棚卸資産が多いのか」といった具体的な深掘りや、業界特有の商習慣(例:建設業の完成工事未払金)を加味した定性的なリスク評価はできませんでした。
「傾向」の指摘と「因果関係」の深掘り
さらに、「過去3年の決算書から、この会社の経営上の最も深刻な課題を3点挙げてください」と指示しました。
「売上原価率の上昇傾向」「販管費の増加」「自己資本比率の緩やかな低下」など、数字の動きに基づいた客観的な指摘はできました。
一方で「なぜそうなったか」という因果関係までは踏み込めません。たとえば、「売上原価率の上昇」の背景に仕入先の変更や円安による輸入コスト増があるかどうかは、現場を知る人間(あるいは私が追加で外部情報をインプット)しなければわかりません。
AIは過去のデータしか見ないため、未来への具体的な示唆や、バイアスのないゼロベース思考での多角的な評価は、FPの役割でした。
「分析・解釈」はFPがメインであり、AIは優秀なサマリー作成アシスタントとして活用する、という位置づけが適切です。
AI時代にFPが持つべき「価値」と「役割」
検証を通じて、ChatGPTは間違いなくFPの業務を劇的に変える強力な武器だと確信しました。ただし、その役割には明確な線引きが必要です。
| 役割 | ChatGPTの能力 | FP(私たち)の専門性 |
| 作業 | 数値抽出、計算、初期のグラフ化 | 不要(AIに完全委任) |
| 分析 | 客観的な数字の傾向、一般的な指標の解説 | 必須(因果関係の深掘り、定性情報の加味) |
| 判断 | なし(判断を下す機能はない) | 必須(意思決定、未来予測、リスク評価) |
ChatGPTによる分析の「限界」と「可能性」
ChatGPTがFPにもたらす最大の可能性は、データの読み込み、計算、一般的な比率の算出作業から解放され、作業時間が大幅に短縮されることです。
また、客観的な数字の傾向を先に把握できるため、FPは最初から深い分析(定性情報との組み合わせ)に集中できます。AIは業務効率化の強力な武器です。
AIは決算書以外の情報(経営者の資質、業界の商習慣、競合の動き、最新の法規制)を、こちらが指示しなければ加味できません。
そして、「結果」はわかっても、「なぜ」そうなったかの本質的な原因解明や、それに基づく「何をすべきか」という具体的な戦略立案は、人間の経験と洞察が必要です。
AIは最強の武器ですが持ち主を選びます。
数字の裏にある「ストーリー」を読み解く人間の役割
FPはAIを恐れるのではなく、「どう使いこなすか」を考えるフェーズに入りました。この面倒な作業から解放された時間を、クライアントと膝を突き合わせて話す時間に使い、数字の裏にある「ストーリー」を読み解く。
それが、これからのFPの価値になるはずです。心の温度差を生み出さない、人間味のある提案こそが、AI時代における私たちの使命です。
「余白」を活かし、未来の価値を創造する
ChatGPTは、私たちから時間のかかる定型作業を取り去り、「余白」という貴重な資源を与えてくれました。
この余白は、単なる休息ではなく、クライアントの目線、業界の空気、そして未来の可能性を深く考えるための思考空間です。
数字は事実を語りますが、その数字を動かすのはいつも「人」の意思と感情です。AIによって作業効率が極限まで高まった今こそ、あなたは目の前の数字から一歩離れ、その裏側にある「非言語サイン」や「物語」に目を向けることができるでしょう。
その洞察こそが、あなた自身の、そしてクライアントの揺るぎない未来の安心につながる光となるはずです。