ec_wp_takebyc_「正解探し」をやめたら、判断できるようになった——判断学という思考法

「正解探し」をやめたら、判断できるようになった——判断学という思考法

「正解」は、存在しない

「どっちが正解ですか?」

この質問を、私たちは何度も繰り返します。AとBのどちらを選ぶべきか。今やるべきか、待つべきか。続けるべきか、やめるべきか。

そして、答えを探します。ネットで検索し、本を読み、専門家に聞き、誰かの成功体験を参考にする。

でも、見つかるのは「人それぞれ」という言葉だけです。

Aを選んで成功した人もいれば、失敗した人もいる。Bを選んで後悔した人もいれば、満足している人もいる。結局、「正解」なんてどこにもない。

ここで多くの人は、諦めます。「じゃあ、どうすればいいの?」と途方に暮れます。

でも、本当の問題は「正解がない」ことではありません。「正解を探している」ことです。

もちろん、法規や税務、物理的な制約など、客観的な事実としての「正解に近い最適解」は存在します。でもそれは、判断の前提となる「データ」です。法律で認められているか、税務上どう処理すべきか、物理的に可能かどうか——これらは第1段階で確認すべき事実です。

そして、そのデータを踏まえて「どう動くか」という決断のフェーズにこそ、正解のない判断学が必要になります。

判断学とは、何を学ぶものなのか

判断学は、「正解の見つけ方」を教える学問ではありません。「判断の仕方」を学ぶものです。

この違いは、決定的です。

正解探しは、「外にある答え」を探す行為です。誰かが既に見つけた答え、データが証明した答え、多数派が選んだ答え。それを見つければ、自分も正しい選択ができると信じています。

でも、判断学が扱うのは「内にある基準」です。自分は何を大事にしているのか。今のリスク許容度はどれくらいか。この判断を、誰に説明できればいいのか。

判断学では、次のことを前提にします。

  • 客観的事実としての正解は存在する。でも、意思決定における正解は存在しない。あるのは「自分にとっての最適解」だけ。
  • 最適解は、状況と価値観と制約条件によって変わる。
  • だから、判断には「再現可能なプロセス」が必要。

判断学とは、「自分の判断基準を言語化し、構造化し、他者に説明できる形にする」学問です。そして、その判断基準を組み合わせたものが、あなたの「判断OS」になります。

判断には、3つの段階がある

判断学では、判断を3つの段階に分けて考えます。この3つが組み合わさって、あなたの判断OSを構成します。

第1段階: 観測する(Observe)——OSのノイズ除去

判断の前に、まず観測します。今、自分はどの状態にいるのか。どんな情報に囲まれているのか。何に揺れているのか。

多くの人は、この段階を飛ばします。状態を認識しないまま、いきなり「どっちを選ぶか」に進もうとします。

でも、自分の立ち位置が見えていなければ、判断の方向も定まりません。霧の中で地図を広げても、意味がないのと同じです。

観測の目的は、不要なキャッシュ(ノイズ)の削除です。情報を集める前にまず現状を観測することが、古いOSによるフリーズを防ぐ手段です。

前回の記事で説明した「情報の海で溺れる」状態は、まさにこの観測を怠ったために起きる現象です。すべての情報を等価に扱い、すべてをメモリに積み込もうとして、OSがフリーズする。観測することで、「今必要な情報」と「今は不要な情報」を切り分けることができます。

観測する段階では、次のことを明らかにします。

  • 自分は今、どの「判断の揺れパターン」にいるのか(情報過多、直感と論理のズレ、恐怖による停滞など)
  • 何が見えていて、何が見えていないのか
  • この判断に影響を与えている要素は何か(関係性、時間、金銭、評判など)
  • 客観的事実(法規、税務、物理的制約など)は何か

観測ができれば、「自分は今ここにいる」と指を差せるようになります。それだけで、判断の解像度は格段に上がります。

第2段階: 規律を定める(Define)——OSのアルゴリズム

観測ができたら、次は規律を定めます。「ここまではOK、ここからはNG」という境界線です。

規律とは、判断基準のことです。曖昧な基準ではなく、明確な基準。「なんとなく」ではなく、「この条件なら」と言える基準。

これが、あなたの判断OSのアルゴリズム(処理ルール)になります。

例えば、家計の判断なら次のような規律です。

  • 月の支出が手取りの80%を超えたら、支出を見直す
  • 教育費は世帯年収の15%までとする
  • 夫婦どちらかが「不安」と感じたら、その判断は保留する

投資の判断なら、次のような規律です。

  • 投資額は生活費6ヶ月分を確保した上での余剰資金のみ
  • 1つの銘柄への投資は総資産の10%まで
  • 損失が15%に達したら、一度立ち止まって再評価する

CFOとしての判断なら、次のような規律です。

  • 売上が前年比10%減少したら、コスト削減計画を発動する
  • 新規投資の判断は、ROI(投資利益率)が20%以上の案件に限る
  • 経営判断は、必ず3つのシナリオ(楽観・標準・悲観)で検証する

規律を定める段階では、「なぜその基準なのか」も言語化します。なぜ80%なのか。なぜ15%なのか。なぜ3つのシナリオなのか。

理由が言語化されていれば、その規律は他者に説明できます。そして、状況が変われば、規律も更新できます。

数値化できない価値をどう規律にするか

「年収20%アップ」や「ROI 20%」といった数値化できる規律は分かりやすいですが、「働きがい」や「社風」といった数値化できない価値はどうすればいいのか。

ここでは、比較・ランク付け・行動ベースの規律を使います。

自己採点式の規律:

  • 今の不満が10点満点中8点以上なら、動く
  • 新しい環境への期待が10点満点中7点以上なら、前向きに検討する

行動ベースの規律:

  • 週に3回以上、朝起きて憂鬱なら基準を満たす
  • 月に2回以上、「辞めたい」と配偶者に言ったら真剣に考える

比較による規律:

  • 3つの選択肢を並べて、「これだけは絶対にない」と感じるものを消去する
  • 5年後の自分に「あの時こうしておけば」と言われそうな選択肢は除外する

数値化できないものは、感覚を観測可能な指標に変換することで規律にできます。

第3段階: 構造に託す(Delegate)——OSのインターフェース

規律が定まったら、最後はそれを構造にします。「誰がやっても同じ結論になる」形に落とし込みます。

これが、あなたの判断OSのインターフェース(操作画面)になります。

なぜ構造化するのか。それは、判断を「自分の頭の中」から解放するためです。

構造化されていない判断は、毎回ゼロから考え直す必要があります。同じような場面が来るたびに、また悩み、また迷い、また時間を消費します。

でも、構造化された判断は再現可能です。次に同じような場面が来たとき、「このフローに従えばいい」と分かります。

さらに、構造化された判断は委任可能です。配偶者に説明できます。部下に任せられます。未来の自分が迷わず実行できます。

構造化する段階では、次のようなものを作ります。

  • 判断フローチャート(条件分岐を図示したもの)
  • チェックリスト(判断前に確認すべき項目のリスト)
  • 判断記録シート(判断の理由と結果を記録するフォーマット)
  • 説明用スクリプト(他者に判断を説明する際の台本)

これらは、あなたの「判断OS」の一部になります。一度作れば、何度でも使えます。そして、使うたびに洗練されていきます。

規律(アルゴリズム)と構造(インターフェース)を合わせたものが、「判断OS」です。 観測によってノイズを取り除き、規律によって処理ルールを定め、構造によって操作可能にする。この3つが揃って初めて、判断は再現可能になります。

構造化は感情を消すためではない

「人生の重要な決断を、フローチャートやチェックリストという『機械的な仕組み』に任せていいのか?」

この疑問は、もっともです。でも、構造に託すのは、心を機械にするためではありません。

不安や焦りといったノイズを構造によって取り除き、最後に残った「本当に大切にしたい感情」と向き合うための余裕を作るためです。

構造があれば、判断の80%は自動化できます。条件を確認し、基準に照らし合わせ、候補を絞り込む。この部分は、感情に振り回される必要がありません。

そして、最後の20%——「本当にこれでいいのか?」という問いに向き合うとき、あなたは冷静です。ノイズに邪魔されず、本当に大切にしたい感情(家族への愛、自分の成長、人生の意味など)と対話できます。

構造化は、感情を消すのではなく、感情をクリアにするための手段です。

判断学の実践例: 転職するかどうか

ここで、具体例を見てみましょう。「転職するかどうか」という判断を、判断学の3段階で構造化してみます。

第1段階: 観測する

まず、自分の状態を観測します。

  • 今の仕事に対して、何に不満を感じているのか?(給与、人間関係、やりがい、労働時間など)
  • 転職を考え始めたきっかけは何か?(特定の出来事、慢性的な不満、外部からの誘いなど)
  • 転職したいのか、転職すべきだと思っているのか、転職しなければならないと感じているのか?

次に、判断に影響する要素を洗い出します。

  • 家族構成(配偶者の有無、子どもの有無、親の介護など)
  • 経済的な制約(住宅ローン、教育費、生活費など)
  • 時間的な制約(いつまでに決めるべきか)
  • 心理的な制約(失敗への恐怖、現状維持バイアスなど)
  • 客観的事実(雇用契約の条件、退職のタイミング、税務上の考慮など)

観測を終えたとき、「自分は今、給与への不満と人間関係のストレスが混在していて、『転職すべき』という義務感と『今動くのは怖い』という恐怖の間で揺れている状態にいる」と言語化できます。

第2段階: 規律を定める

次に、転職するかどうかの判断基準を定めます。

絶対条件(これがなければ転職しない)

  • 年収が現在より20%以上アップする
    または
  • 労働時間が週40時間以内になる
    または
  • 自分の専門性を活かせる職種である

優先条件(これがあれば加点)

  • 通勤時間が片道30分以内
  • リモートワーク可
  • 福利厚生が現職と同等以上

除外条件(これがあれば転職しない)

  • 試用期間中の給与が現在の70%未満
  • 会社の離職率が年30%以上
  • 面接で「なんか違う」と感じた

主観的な規律(数値化できない価値)

  • 「今の不満が10点満点中8点以上」なら転職を真剣に検討する
  • 「新しい環境への期待が10点満点中7点以上」なら前向きに進める
  • 「週に3回以上、朝起きて憂鬱」なら動くべきタイミング

さらに、判断のタイミングを定めます。

  • 3ヶ月以内に上記の絶対条件を満たすオファーがなければ、現職に残る
  • オファーが来たら、配偶者と48時間以内に話し合う
  • 最終判断は、1週間の猶予を持って行う

第3段階: 構造に託す

最後に、この判断を構造化します。

転職判断フローチャート

[オファー受領]
    ↓
[絶対条件を満たすか?]
 YES → 次へ  NO → 見送り
    ↓
[除外条件に該当するか?]
 YES → 見送り  NO → 次へ
    ↓
[配偶者と話し合い]
    ↓
[優先条件はいくつ満たすか?]
 2つ以上 → 前向きに検討
 1つ以下 → 慎重に検討
    ↓
[主観的な規律を確認]
 ・今の不満は何点か?
 ・新しい環境への期待は何点か?
 ・朝起きて憂鬱な日は週に何回か?
    ↓
[1週間の猶予期間]
 ・現職との比較表を作成
 ・転職後の生活シミュレーション
 ・不安の言語化
    ↓
[最終判断]

配偶者への説明スクリプト

「今、〇〇社からオファーをもらっている。年収は現在より25%アップで、労働時間も週40時間以内になる。ただし、通勤時間は片道45分に増える。

私たちが決めた基準では、絶対条件(年収20%アップ)は満たしているけど、優先条件(通勤30分以内)は満たしていない。

あなたはどう思う? 一緒に判断したい」

この構造があれば、次に転職の話が来たときも、同じフローで判断できます。そして、この構造は配偶者と共有できます。未来の自分も、迷わず実行できます。

判断OSのバージョンアップ——規律は更新できる

判断学が教えてくれることの一つは、「判断は更新できる」ということです。

一度定めた規律は、永遠ではありません。状況が変われば、価値観が変われば、規律も変わります。

「年収20%アップ」という基準は、子どもが生まれれば「30%アップ」に変わるかもしれません。「労働時間週40時間以内」という基準は、親の介護が始まれば「週30時間以内」に変わるかもしれません。

これは、判断OSのバージョンアップです。

  • OS 1.0(独身時代): 年収重視、自由重視、リスク許容度高
  • OS 2.0(結婚後): 安定重視、配偶者との合意重視、リスク許容度中
  • OS 3.0(子育て期): 教育費重視、時間重視、リスク許容度低
  • OS 4.0(子ども独立後): 自己実現重視、老後資金重視、リスク許容度中

判断学では、規律の更新も構造の一部です。「どんな条件が変われば、この規律を見直すか」も、あらかじめ決めておきます。

例えば、転職の規律なら次のような更新トリガーを設定します。

  • 子どもが生まれたら、規律を見直す
  • 親の介護が始まったら、規律を見直す
  • 3年ごとに、規律が現状に合っているか確認する

こうして、判断OSは常にアップデートされ続けます。

判断学を、日常に組み込む

判断学は、特別な場面だけで使うものではありません。日常の小さな判断にも使えます。

「今日の夕飯、何にする?」という判断にも、観測・規律・構造があります。

  • 観測: 今日の疲労度、冷蔵庫の中身、調理にかけられる時間
  • 規律: 疲れているときは外食か惣菜、冷蔵庫の食材が余っているときは自炊、調理時間は30分以内
  • 構造: 疲労度チェックリスト、定番メニューリスト、外食候補店リスト

こうした小さな判断の構造化が積み重なると、「判断疲れ」が減ります。毎回ゼロから考える必要がなくなるからです。

そして、小さな判断で練習を重ねれば、大きな判断にも応用できるようになります。

判断学の3つの領域

判断学は、領域によって少しずつ形を変えます。

家計における判断学では、関係性を重視します。配偶者との価値観の違い、子どもの成長、家族全体のライフプラン。判断は、一人で完結しません。

投資における判断学では、不確実性を受け入れます。リスクとリターン、時間軸、感情との付き合い方。判断は、常に揺れ続けます。

CFOとしての判断学では、説明責任を果たします。経営陣への報告、株主への説明、従業員への影響。判断は、組織全体に波及します。

でも、どの領域でも、根っこにあるのは同じです。観測する、規律を定める、構造に託す。この3つの段階。

あなたの判断は、どの領域から始めますか?

→ 家計における判断学を学ぶ: [household.takebyc.jp]
→ 投資における判断学を学ぶ: [invest.takebyc.jp]
→ CFOとしての判断学を学ぶ: [cfo.takebyc.jp]

正解は、探すものではありません。作るものです。

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