会計プロが指南:10年後の生存を決める「会社と個人の3つの財務体質」構築法

いま、あなたの会社や事業の売上は好調でしょうか。しかし、その「好調」が10年後まで続く保証はどこにもありません。事実、景気の波やテクノロジーの変化、あるいは予期せぬパンデミックなどにより、多くの企業や個人の事業が危機に瀕しています。

倒産のニュースが頻繁に報じられるのは、運が悪かったからではありません。それは、運ではなく、根本的な「財務体質」に問題があったからです。

本記事は、企業経営者と個人フリーランスの双方に通じる、10年後に生き残るための「3つの財務体質」を専門家の視点から徹底解説します。売上を示す損益計算書(PL)だけを見て安心する経営から卒業し、事業の体幹である貸借対照表(BS)を鍛える具体的な方法をお伝えします。

目次

なぜ「財務体質」は10年後の行き先を決めるのか

財務体質が弱いと、景気変動や予期せぬトラブルが発生した際に、その一発でゲームオーバーになります。短期的な利益の追求は「ドーピング」のようなものであり、体質を無視すればすぐに疲弊してしまうのです。

短期的な利益の追求と長期的な体幹

短期的な利益(売上至上主義)は、一見すると事業が成功しているように見えます。しかし、その裏で売掛金の回収が遅れていたり、過剰な在庫を抱えていたりすると、手元の資金が底を突き、いわゆる「黒字倒産」を引き起こします。これに対し、長期的な体質(健全なBS)は、外部環境の変化に左右されない持続可能性を生むのです。

倒産・失業を引き起こす「慢性赤字体質」とは

企業における慢性赤字体質とは、単に利益がないことではなく、運転資金が減り続ける体質を指します。「黒字倒産」の多くは、売掛金回収遅れや在庫増加など、資金の流れが滞ることで発生します。

これは、個人事業主にも共通します。手取りが増えても貯蓄がゼロの「手取り増でも貯蓄ゼロ」の人は、収入増に伴い生活レベル(支出)を上げてしまう心理的な罠に陥っています。結果、収入の増加にもかかわらず、手元の資金は増えず、少しの病気や仕事の途絶で生活が破綻するリスクを抱えます。赤字とは、単に利益がないことではなく、「資金が減り続ける」構造的な問題なのです。

企業と個人に共通する生存戦略としての財務概念

企業と個人に共通する生存戦略は、「お金の流れ」と「お金の残高」の健全性を維持することです。

財務概念企業経営個人事業/家計
お金の流れ資金繰り(キャッシュフロー)家計(収支管理)
お金の残高自己資本(純資産)個人の純資産(資産 – 負債)

この共通の概念を理解することが、10年後に生き残るための第一歩となります。

財務体質① 安定的なキャッシュフローを維持する力

「入ってくるお金と出ていくお金の流れ」を安定させ、マイナスにならない土台を作る。これが一つ目の財務体質です。キャッシュフローが安定していれば、突発的な支出にも対応でき、事業や生活の継続性を担保できます。

営業キャッシュフローで生きる会社と借入で延命する会社

真に強い会社は、本業の儲け(営業キャッシュフロー)だけで、設備投資や借入金の返済ができます。本業で生み出す現金だけで事業を回している状態です。

一方で、借入(財務キャッシュフロー)で本業を支えなければならない会社は、自転車操業に陥っています。これは、短期的な売上があっても、仕入れや人件費などの支払いが先行し、常に資金繰りに追われている危険なサインです。

手取りが増えても貯まらない人の共通点

個人におけるキャッシュフローの課題は、多くの場合、固定費の増加にあります。高い家賃や車のローン、見直しをしない保険、サブスクリプションサービスの過多などが、毎月の支出を圧迫し、手取りが増えても貯蓄に回せない状態を生みます。

ファイナンシャル・プランナーの視点から見ても、「年収が上がったら生活レベルも上げる」という心理的な罠から抜け出せない人が非常に多いです。収入の増加に応じて、生活水準を固定費ベースで上げてしまうと、収入が減った途端に立ち行かなくなります。

キャッシュフロー改善の共通策:固定費圧縮と変動化

キャッシュフローを改善する共通策は、固定費の圧縮と変動費へのシフトです。

  • 企業: 利益に直結しない固定費(遊休資産、過剰な人件費など)を削減し、必要な業務を外部委託するなどして変動費にシフトします。これにより、売上高が下がった際の損失拡大を防ぐことができます。
  • 個人: 住居費、通信費、保険料など、毎月自動的に引き落とされる固定費を徹底的に見直します。たとえば、スマホのプランや保険の見直しだけで、月数万円のキャッシュフロー改善が可能になるケースは少なくありません。

財務体質② 不測の事態に備える「防御型バランスシート」

二つ目の財務体質は、「万が一の備え」を万全にし、不況や病気でも倒れない分厚い自己資本を築くことです。これは、事業や生活における「防御力」を意味します。

借入依存と自己資本不足のリスク

企業の場合、借入依存度(負債の割合)が高いと、金利上昇や銀行の融資引き締めで即座に経営危機に陥ります。自己資本比率(純資産÷総資産)が低い会社は、外部環境の変化に対する耐性が極めて低い状態です。自己資本は、事業を継続するためのクッションであり、このクッションが薄いと、少しの赤字で債務超過に転落してしまいます。

貯金ゼロで投資を始める危うさ

個人の場合も同様です。十分な貯金(現金)がない状態で、流行に乗って投資(リスク資産)を始めるのは非常に危険です。投資は緊急時に換金できない、あるいは価値が下落するリスクがあります。

私のM&Aや監査対応の経験から見ても、資金繰りに苦しむ企業は「すぐに現金化できる資産」が乏しいことが共通しています。個人もまずは「生活防衛資金」という名の「個人の内部留保」を最優先で築く必要があります。

防御力の指標:純資産と生活費◯ヶ月分の現金

防御力の指標は明確です。

  • 企業: 自己資本比率(純資産の割合)。最低でも20~30%以上が健全とされる一つの目安です。
  • 個人: 「固定費×3ヶ月~12ヶ月分」の現金確保。個人事業主であれば、取引先の倒産や自身の病気リスクを考慮し、最低でも6ヶ月分、理想は12ヶ月分を確保すべきです。この現金が、次の仕事を探したり、新しいスキルを学ぶための時間と心の余裕を生み出します。

(AI・テクノロジー実務検証への応用としての感情的な問い)

ここで少し立ち止まって、ご自身の「心の防御力」について考えてみましょう。

「AI導入時の社内の抵抗」や「税務調査の不安」といった、数字だけでは測れないストレスに直面したとき、あなたを支える心の余裕はどこから生まれますか?

それは、他ならぬ「財務の備え」から来るのではないでしょうか。もしあなたの会社の監査法人担当者なら、財務体質が弱い状態で新しいSaaS導入を進めることに対して、どんな潜在的リスクを指摘すると思いますか?(例:投資対効果が得られない場合の減損リスク、導入失敗時の追加費用など)。

財務体質③ 成長に投資できる「攻めの余力」

三つ目の財務体質は、守りの体質を整えた上で、将来の利益を生む種まきに資金を回せる「余裕」を持つことです。

利益剰余金を「守り」だけに使わない経営

健全な財務体質を持つ企業は、利益剰余金を単なる「守り」(現金)として留保するだけでなく、次の利益を生むための設備、研究開発、人材育成に戦略的に再投資します。これは、守りを固めたからこそできる「攻めの経営」です。

投資判断の基準として、投資回収期間(ROI)の考え方を持ち、投資した資金がどれくらいの期間で利益となって戻ってくるかを冷静に判断する力が求められます。

学び・資格・副業に回せる余剰資金

個人にとっても自己投資は非常に重要です。守りの資金とは別に、将来の収入源となるスキルアップ(資格取得、新しい事業への参入など)に資金を回すことが、10年後の「稼げる個人」を創ります。

私自身、簿記専門学校の卒業から始まり、会計事務所、上場企業のCFO、そして現在のFPとしての活動に至るまで、常に新しいことに興味を持ち、学び続けてきました。AFP資格や簿記資格、上級心理カウンセラーの資格取得、ライティングスキルへの投資は、単なる趣味ではなく、すべて現在の個人事業主としての活動を支える「知識資産」への投資です。

10年複利で効く「知識資産」への投資戦略

自己投資は、金融投資以上のリターンを生む可能性があります。なぜなら、知識やスキルは「減価しない資産」だからです。一度身につければ、それは「人的資本」として10年複利で効き続けます。

特に、会計や税務、ファイナンシャル・プランニングといった知識は、防衛だけでなく攻めの基盤となります。これらの知識を活かし、新しい事業や副業に回せる「余剰資金」を持つことが、成長への鍵です。

「潰れる会社・稼げない個人」の財務に共通する落とし穴

多くの人が陥りがちな、見た目の数字に騙される罠を知っておく必要があります。

売上や年収を「体力」と勘違いする罠

最も危険な落とし穴は、売上や年収を「体力」と勘違いすることです。

  • 売上や利益はPL(損益計算書)上の「フロー」であり、その年だけの結果です。
  • 体力はBS(貸借対照表)上の「資産」であり、これまでの蓄積です。

「年収1000万円でも貯金ゼロ」の人は、年収500万円で貯蓄が豊富な人に、財務体力で圧倒的に負けています。重要なのは、売上や年収の絶対額ではなく、そこからどれだけ自己資本(純資産)を増やせたかです。

資金繰り表を持たない経営と家計簿を見ない個人

将来の資金ショートを見える化できないことは、財務的な盲目状態です。

  • 企業: 資金繰り表を持たない経営は、いつ資金が底を突くかを知らずに航海しているようなものです。私の会計事務所での経験からも、倒産のサインは必ず資金繰り表に現れていました。
  • 個人: 家計簿を見ない個人も同様です。何にどれだけ使っているかを知らなければ、改善のしようがありません。最低限、毎月の収支と資産のサマリーだけでも可視化することが重要です。

目先の節税が「未来の赤字」を招くケース

会計・税務の専門家として警鐘を鳴らしたいのは、過度な節税対策です。目先の税金を減らすためだけに、不要な保険に加入したり、急いで設備投資を行ったりすることは、結果的に「キャッシュアウト」を招きます。

節税は、本来、税法上の優遇措置を利用して、企業価値を高めるための投資であるべきです。キャッシュアウトを伴う不要な支出は、手元の現金を減らし、真の財務体質を悪化させ、「未来の赤字」を招く可能性があります。

10年後に強い人と組織が今から始めていること

生き残り組になるための、具体的な行動シフトを見ていきましょう。

PLではなくBSで考える習慣

強い組織や個人は、「今月どれだけ儲かったか(PL)」ではなく、「資産はどれだけ増えたか(BS)」を最優先の指標にします。

  • 経営者は、純資産の増強を最優先ミッションに据えます。
  • 個人は、「貯金残高」ではなく「純資産(資産 – 負債)」の増加率をチェックします。

収入源を「増やす」より「育てる」発想

単に労働時間を増やして収入を増やすのではなく、自動で収益を生むシステム(知識、仕組み、副業)を構築する、つまり「収入源を育てる」発想に切り替えます。

私のAFPとしての知識を活かしたライティング事業や、これまでの経験を活かした研修事業への参画も、この「育てる」発想に基づいています。

金融リテラシーは、防衛ではなく「攻めのスキル」である

税金や社会保険、投資の知識は、知らないと損をする「防御」だけでなく、資産を効率的に増やす「攻め」の武器になります。

特に、事業と個人のお金を明確に分け、両方のキャッシュフローとBSを健全化する能力は、FPの知識と実務経験が直結する最強のスキルです。単なる知識の習得ではなく、「設計・計画」に活かすことが、10年後の生存確率を飛躍的に高めます。

10年後、生きているのは「強い者」ではなく「整えた者」

10年後、生き残っているのは、たまたま運が良かった会社や個人ではありません。それは、偶然ではなく「財務の設計」で生き残った者です。

数字と向き合うのは怖いかもしれません。しかし、その覚悟こそが、あなたの未来に耐えうるしなやかな強さ(レジリエンス)を生みます。あなたが「潰れない会社」や「稼げる個人」になるための唯一の方法は、目を背けずに財務体質を整えること。それは、あなた自身と、あなたの事業を守る、最も尊い行動です。


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👉 論理的に考えて、あなたのBSの健全性を高めるための最初の1歩として、まずはキャッシュフロー表と資産サマリの可視化を今日中に行いましょう。

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