🌟 はじめに
「CFOになるには、何を学べばいいですか?」
そんな問いを受けることがあります。でも私は、スキルの話をする前に、こう尋ねたくなります。
“あなたは、なぜCFOを目指すのか?”
私は簿記専門学校を卒業後、会計事務所から始まり、様々な業界を経験し、最終的に取締役CFOとして3年間在任しました。その間、2度のIPOを経験し、多くの経営課題と向き合ってきました。
振り返って思うのは、CFOという役割の本質は、決して特定のスキルセットにあるのではないということです。それよりもむしろ、「経営をどう見るか」「組織にどう貢献するか」という視座にこそ、CFOの真の価値があると確信しています。
この記事では、スキルや経験の前に必要な”視座”について、そして「経営におけるCFOの意味」を改めて言葉にしてみたいと思います。
📌 第1章|CFOは「スキルの集合体」ではない
CFOに求められる多彩なスキル
たしかにCFOには多くのスキルが求められます。
- 決算・財務諸表の作成と分析
- 資金調達・資金管理
- 開示業務・IR活動
- 内部統制・内部監査
- M&A・企業価値評価
- 予算管理・業績管理
- リスク管理・コンプライアンス
私自身、これらのスキルを一つひとつ身につけてきました。日商簿記2級から始まり、AFPの資格を取得し、実務を通じて専門性を高めてきました。
しかし”全部できる人”がCFOなのではない
ここで重要なのは、これらすべてのスキルを完璧に習得した人がCFOになるわけではないということです。
実際の経営現場では、個々のスキルよりも、「経営全体を見渡し、意思決定を支える立ち位置」が求められます。
例えば、M&Aの専門的な知識がなくても、「なぜこのタイミングでM&Aなのか」「この買収が3年後の事業ポートフォリオにどう影響するか」という視点から経営陣と議論できることの方が重要です。
意思決定を支える立ち位置の重要性
CFOの真の価値は、個別のスキルではなく、経営の意思決定プロセスにおける立ち位置にあります。
- 社長の思考パートナーとして、戦略的な議論に参加する
- 各部門の橋渡し役として、全社最適の視点を提供する
- 中長期的な視点から、短期的な判断にバランスをもたらす
これらの役割は、特定のスキルよりも、「どういう視座で経営を見るか」に依存するのです。
📌 第2章|”なぜこの会社に、このCFOが必要か”
会社によって異なるCFO像
私がこれまで経験してきた中で痛感するのは、社長の個性、事業フェーズ、経営課題によって、求められるCFO像は大きく異なるということです。
成長フェーズの企業では、攻めの姿勢と資金調達力が重視されます。一方、成熟企業では、効率化とリスク管理が中心となります。
創業者社長のもとでは、経営の体系化とガバナンスの構築が求められがちです。しかしプロ経営者のもとでは、より戦略的なパートナーシップが期待されます。
汎用的な「CFO像」の限界
多くのCFO論は、汎用的な「理想的なCFO像」を描きがちです。しかし、現実の経営現場では、そのような汎用的なモデルに自分を当てはめることよりも、「この会社の、この経営陣にとって、自分はどのような価値を提供できるか」を考えることの方が重要です。
私自身、簿記専門学校出身で公認会計士の資格を持たない立場から、どのようにCFOとしての価値を発揮するかを常に考えてきました。資格やスキルの不足を嘆くのではなく、「自分ならではの視座」を見つけることに注力したのです。
「経営のどこに価値を発揮するか」という問い
CFOとしての意味を見つけるためには、「経営のどこに価値を発揮するか」を考えることが重要です。
- 数字に強くない社長のサポート役として?
- 現場と経営陣の橋渡し役として?
- 中長期戦略の策定パートナーとして?
- リスク管理の専門家として?
この問いに対する答えが、あなた独自のCFO像を形作ります。
📌 第3章|CFOは「鏡」になる──経営を映し出す存在
社長やチームの”思考の整理役”
CFOとしての実務経験を通じて学んだことの一つは、CFOはしばしば社長やチームの”思考の整理役”になるということです。
社長が漠然と感じている課題や機会を、CFOが数字や論理的な枠組みを使って整理し、明確化する。これは決して批判や否定ではなく、思考のサポートなのです。
例えば、「なんとなく収益性が悪化している気がする」という社長の感覚を、セグメント別の収益分析や競合比較によって具体化し、対策の方向性を見えるようにする。これがCFOの重要な役割の一つです。
数字を使って状況を可視化する
CFOの強みは、複雑な経営状況を数字を使って可視化できることです。しかし、これは単なる数字の羅列ではありません。
- 現状の把握:今、何が起きているのか
- 要因の分析:なぜそれが起きているのか
- 将来の予測:このまま進むとどうなるのか
- 選択肢の提示:どのような対策が考えられるか
こうした段階的な分析によって、経営の選択肢を増やし、意思決定の質を向上させることがCFOの使命です。
時に”耳の痛い指摘”をする勇気
CFOとして最も難しく、しかし最も重要なのは、時として”耳の痛い指摘”をする勇気を持つことです。
「この投資は回収が困難です」 「このペースでは資金ショートの可能性があります」 「市場の期待と現実にギャップがあります」
こうした指摘は、その場では歓迎されないかもしれません。しかし、長期的には経営陣からの信頼につながります。なぜなら、CFOが本当に会社のことを考えているからこそ言える言葉だからです。
📌 第4章|だからこそ「視座」が問われる
スキルはあとから身につく
私の経験から断言できるのは、スキルはあとから身につくということです。
私自身、CFOに就任した当初は、IR業務の経験もなければ、大規模なM&A案件の経験もありませんでした。しかし、必要に応じてそれらのスキルを身につけ、専門家の力を借りながら実務をこなしてきました。
重要なのは、完璧なスキルセットを事前に持つことではなく、必要なときに学び、成長する意欲と能力を持つことです。
視座は”今の延長線”にはない
一方で、視座は今の延長線上で身につくものではありません。
視座とは、経営に対する根本的な考え方、価値観、哲学です。これは一朝一夕に変わるものではなく、また、外から与えられるものでもありません。
「何に貢献したいか」「経営とどう向き合いたいか」「どのような価値を社会に提供したいか」
こうした根本的な問いに対する答えが、CFOとしての視座を形作ります。
あなたが”CFOになる理由”
だからこそ、CFOを目指す人には「なぜCFOになりたいのか」を深く考えてほしいのです。
- 数字が好きだから?
- 経営に関わりたいから?
- 会社の成長に貢献したいから?
- 社会に価値を提供したいから?
この理由が明確になったとき、あなた独自のCFO像が見えてきます。そして、それこそが「あなたがCFOである理由」になるのです。
私の場合、簿記専門学校時代に抱いた「会計を通じて経営を支えたい」という想いが、様々な業界での経験を経て、最終的にCFOとしての役割に結実しました。資格や肩書きではなく、この根本的な想いこそが、私のCFOとしての原動力だったのです。
✅ まとめ:肩書きではなく、”立ち位置”を問おう
CFOという肩書きは手段であり、ゴールではありません。
私が2度のIPO経験と3年間のCFO在任を通じて学んだ最も重要なことは、CFOの価値は肩書きにあるのではなく、経営における”立ち位置”にあるということです。
あなたの強みや視座が、今の経営にとってどう意味を持つか。それを考え続けることが、CFOという役割の本質に近づく第一歩です。
**スキルは学べます。**経験は積めます。資格は取得できます。
**しかし、視座は違います。**それは、あなたがこれまでの人生で培ってきた価値観や哲学、そして「経営とどう向き合いたいか」という根本的な想いから生まれるものです。
CFOになることを目指している方、すでにCFOとして活動している方、どちらの場合も、スキルや経験の前に、まず自分の視座を問うてみてください。
「なぜ、私がCFOなのか?」 「この経営に対して、私はどのような価値を提供できるのか?」 「私が目指すCFO像は何か?」
これらの問いに対する答えが、あなた独自のCFOとしての道筋を照らし出すはずです。
年齢に関係なくチャレンジし続ける。これまでの経験で得た知識やスキルを後進に引き継いでいく。そうした想いを持ちながら、CFOという役割を通じて経営に貢献していく──これこそが、私が考えるCFOの本質なのです。
この記事は、実務経験に基づいた個人的な見解を含みます。CFOを目指す方々が、自分なりの視座と価値観を見つける一助となれば幸いです。
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